【F1】 「シート獲得の可能性はまだある」。未来の「夢」につなげる可夢偉の決断 (3ページ目)

  • 米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki
  • 桜井淳雄●撮影 photo by Sakurai Atsuo(BOOZY.CO)

 そういったことをすべてひっくるめて、可夢偉にとっても決して容易な決断ではなかったが、可夢偉はそれらすべてを背負う覚悟をした。そうしてでも、良いレースがしたいからだ。

「F1に乗ります。もちろん、戦えるチームで。そりゃそうですよ、下(のチーム)やったらお金を払ってまで乗らないですよ」

 どうしても今、コンペティティブなチームでF1に残りたいと思ったのは、可夢偉の「夢」に向けたその先の道筋が見えているからだ。

「(上位のドライバーが)2013年はあんまり動かないけど、2014年はいっぱい動くから。だから今はとにかく、ポイントを獲って戦えるチーム、上のチームが見てくれるようなチームに残ることが重要なんです。ポイントが獲れないチームなんて、誰も見てくれないですよ。『邪魔しちゃダメだよ』くらいにしか言われへんのやから(苦笑)」

 実を言えば、経験豊富で速さもあるドライバーを必要としている下位チームのシートならば、さほど苦労せずに獲得できる可能性は大いにあった。だが、可夢偉はそれをよしとしなかった。それは未来の「夢」につながるシートではないからだ。

「遅いチームで走ってお金をもらってもしょうがないんですよ。それって、結果を残しにいくことをあきらめてるようなもんでしょ? よく言うじゃないですか、『あきらめたら何も始まらない』って。でもそんな勇気のない人間にはなりたくないんで。たとえ苦労して1年間苦しい状況でレースをしても、そこで結果を残すことによってその次につながるんです。でも、ポイントも獲れないようなチームに行ってしまうと、(自分の実力は)何も見せられないから」

 そのためにファンの人たちにまで支援を請うことに、可夢偉の気持ちとしても大きな抵抗があった。実際に、否定的な意見もあるだろう。ここであきらめることは簡単かもしれない。

 だがそれでも、可夢偉は夢を追いかけ挑戦することを選んだのだ。

「人から見れば、ワガママかもしれない。『ええやんけ、そんなもん! F1に乗れてるんやから、遅いチームでもカネもらって乗っとけよ!』って思われるかもしれへん。実際にそう言うてくる人もいます。でも、僕はお金のためにレースをしているわけじゃないから。レースで勝つために始めたんです。レースに意味があるとしたら、それは勝つことやと僕は思うから」

 そう言い切る自信が、可夢偉にはある。

 残りのシートが少なくなり、周囲からはかなり厳しい状況なのではないかという見方もされる。海外メディアの中には、ザウバーに残留できなかった時点でほぼすべての可能性がついえたと考えたところさえもあった。

 だが、現実は違う。可夢偉は自信に満ちている。

 良い感触がつかめているのかと問い掛けると、ゆっくりとうなずいて、可夢偉はこう言った。

「ホントに。それは安心してください。みんな僕が困っていると思ってるみたいやけど、全然困ってませんから。まだ道はありますよ。でもね、それをあまりに言っちゃうとホントに大変なことになるんで、それはちょっと待ってください。難しいんですよ。あまり変に動くと、そのチャンスが壊れちゃう可能性もあるんで。でも(来季のシートは)大丈夫です、やるんです!」

 可夢偉の目には、どんな「夢」への道筋が映っているのだろうか。今はまだ話せないその道筋というのが、見てみたい。

 募金の1口1万円という設定は、支援者に謝礼として送るリストバンドの制作・送付のコスト、目標とする金額の規模を考えれば仕方のないことだったのだと可夢偉は言う。

「1万円というのはすごく大金だと思いますけど、僕が頑張ってF1に残ってそのお返しができればなと思っています。僕にはそれしかできませんから。なので、ファンの皆さん、ぜひ協力してください」

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