【F1】ベッテル対アロンソ。直接対決なきチャンピオン争いは最終戦へ (2ページ目)

  • 米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki
  • 桜井淳雄●撮影 photo by Sakurai Atsuo(BOOZY.CO)

 マッサのレースを台無しにしかねないほどの犠牲を強いるこの決断には、当然のように批判めいた声も聞かれた。本来はギアボックスを交換した場合に科せられるのがこのペナルティだが、フェラーリはFIAがこれをコントロールするために取り付ける金属ワイヤーの封印を便宜上カットしただけで、マッサに新品のギアボックスを与えたわけでもない。交換には時間がかかり、それに気付いたレッドブルも3番グリッドのマーク・ウェバーを同じように降格させてアロンソを再びダスティなイン側グリッドに押しやる可能性もあったからだ。
「難しい決
断だった。しかしフェリペは個人の利益よりもチームの利益を優先する我々のチーム精神を共有してくれた。これが我々のスタイルだ。他チームがどう言おうと、それは勝手だ。だが我々はレギュレーションのとおりに行動しただけであり、法の精神に反するとも思わない。むしろレッドブルも同じことをやってくるかもしれないから、我々は決勝前のギリギリの段階でこれをやったほどだ。それも戦略の一部だ」

 当のマッサは「チームとチームメイトを助けるために受け容れたよ。それができるドライバーはそんなに多くはないと思うけど、僕は常にチームのために戦うからね」とチームプレイに徹している。フェラーリのチーム内にも、それを容認し一丸となってアロンソのために戦う雰囲気がある。

 こうして迎えた決勝レース。スタートはフェラーリの読みどおりにイン側グリッドのドライバーが軒並み出遅れ、アロンソは狙いどおりに好加速を決めてターン1までに4番手まで浮上してきた。フェラーリの戦略は的中した。

「僕らはいつも予選が7位とか8位だけど、決勝の1周目の終わりには3位とか4位で帰ってくるんだ。そうするとレースは少し楽になる。僕らはレースペースが良いから、上位集団にいればついていくことはできる。でも下位集団に埋もれてしまうと本来の速さで走れず、その時点でレースはお終いだ」(アロンソ)

 一方、首位を守ったベッテルはレースをリードする。2番手にはマクラーレンのルイス・ハミルトンが付けるが、ベッテルは後ろとの差を見ながらDRS (可変リアウイング)を使わせない距離を保ってレースをコントロールし続けた。※DRSは1秒差以内でないと使えない

 だが、42周目に一度だけミスを犯した。曲がりくねったセクター1で周回遅れのマシンに引っかかり、スロットルを緩めざるを得なかった。そしてハミルトンに付け入る隙を与えてしまい、DRSを使っていとも容易(たやす)くオーバーテイクを許してしまったのだ。

「彼に最高の招待状を送ってしまったんだ。セクター1でカーティケヤン(HRT)を抜くのに手間取っている間に、ルイスにDRSゾーンで背後につかれてしまった。(HRTを抜いてからの)コーナーひとつじゃ、十分に差を広げなおすことはできないよ。それまでずっと彼とのギャップをコントロールしてきたのにね。彼は巡ってきた一度のチャンスをつかみ取ったんだ」

 テキサス州オースティンのサーキットはタイヤの摩耗も性能低下も少なく、ほぼすべてのドライバーが1回ストップ作戦で走り切った。とはいえ、それはさほど余裕のある戦略ではなく、無理なドライビングをすれば1回の交換では走り切ることが難しくなる可能性もあった。だからこそベッテルもハミルトンもタイヤを痛めないようペースを抑え気味に走っていたのだ。

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