【F1】予想外の好レース。波乱のアブダビGPで展開されたバトルの舞台裏 (4ページ目)

  • 米家峰起●取材・文 text by YoneyaMineoki
  • 桜井淳雄●撮影 photo by Sakurai Atsuo(BOOZY.CO)

 これで楽になったアロンソは、やがてタイヤが温まって不安がなくなると猛プッシュでファステストラップを連発し、ライコネンを追い始めた。

「後ろのセバスチャン(ベッテル)だけがソフトタイヤを履いていて(速かったので)、最後のバトルで彼がどれだけ攻めてくるかは未知数だった。だから残り8周でタイヤに不安がなくなった時点から、僕は150%プッシュしたんだ。キミを捕まえようともした。でもDRS (可変リアウイング)が使える1秒以内(のタイム差)には届かなかったね。僕らには勝てる速さがなかったということさ」(アロンソ)

 しかしアロンソは2位という結果に満足している。不可能だと思われたベッテルの前でのフィニッシュを果たし、ドライバーズランキングトップのベッテルとのポイント差は10にまで縮まったのだから。

「すごくハッピーだよ。今週末はそんなにコンペティティブ(競争力がある状態)じゃないのは分かっていたし、予選7位で6番グリッドからのレースだったんだからね。シミュレーション上は5位か6位が精一杯だったし、僕らは自分たちのレースに専念しただけだ。僕らにとってはパーフェクトな日曜日だよ」

 一方、ベッテルは残り3周の52周目にDRSを使ってバックストレートでバトンに並びかけ、両者はサイドバイサイドのままシケインを曲がり、最後にはベッテルが前に出た。息詰まる攻防は、ついにベッテルに軍配。最後尾スタートから3位表彰台に立ったベッテルもまた、満足げな表情を見せた。

「今日はメチャクチャなレースになっていてもおかしくなかった。それでもこの結果を得られたことは誇りに思うべきだろう。それに僕らは良い流れをつかむことができた。ポイントは少し失ったけど、流れをつかむことができたんだ。クルマは速いし、残りの2戦が楽しみだよ」

 トップでチェッカーを受けたのは、ライコネン。3年ぶりのF1現役復帰の初年度にして優勝を果たした。2009年ベルギーGP以来の優勝だ。マシンを降りてコクピットの前に立ちガッツポーズを見せはしたが、表彰台で「今の気持ちは?」と聞かれ、「特にないよ」と答えるなど、本人は相変わらずの様子だった。だが、チームの努力は誰よりも彼がよく分かっていた。

「以前僕がF1で走っていた時には、僕があまり笑わないと、みんな僕のことをボロクソに言ったけど、今回もそうかもね。跳び回るようなことはしない。でも僕はとてもハッピーだよ。自分自身にとってもそうだけど、それよりもチームのためにうれしい。チームにとって本当に大変な1年だったからね。これによって流れが変わって、これからもっと良いレースができてたくさん勝てるようになればと思うよ」

 アブダビGPが終わり残り2戦。ランキング3位のライコネンにはタイトル獲得の可能性が消え、ついに戦いはベッテル対アロンソに絞られた。

 ベッテルが「目の前のレースに集中するだけ」と言えば、アロンソは「自信はあるよ。僕らはシーズンの最後まで戦う。今の僕らに充分な速さはないけど、僕らには強みもある。それを最大限に生かすんだ」と言う。最終戦の最後のコーナーまで、2012年シーズンのレースは目が離せない。

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