【F1】予想外の好レース。波乱のアブダビGPで展開されたバトルの舞台裏 (3ページ目)

  • 米家峰起●取材・文 text by YoneyaMineoki
  • 桜井淳雄●撮影 photo by Sakurai Atsuo(BOOZY.CO)

「それに驚いて避けたせいで(コース上の)ボード(発泡スチロールの板)に当たってフロントを壊してしまった。最悪のタイミングで(破損したパーツを)交換しなければならなかったんだ」(ベッテル)

 セーフティカー走行中の13周目にピットインしたベッテルは、タイヤとノーズを換え、再び最後尾に落ちてしまった。

「あそこで思ったんだ、もうフルアタックするしかないなってね。後ろから追い上げるなんて、楽なわけはない。しかも今日の僕は2回もそれをやったんだ。でもおかげで最高のレースになった。すごく楽しんだよ」

 絶望的な状況下でもレースを楽しむ余裕。それがベッテルの強さだ。そして今のレッドブルには、それができるだけの速さもある。ベッテルはほとんどのドライバーがワンストップ作戦を採る中で、2ストップ作戦に活路を見出すことを選んだ。前走車たちとは異なるタイヤを履き、30周目を迎えた頃に彼らが次々とピットインしていき前が開けたところで本来の速さを発揮。結果、大きなバトルの必要に迫られることなく、気づけば首位ライコネンの背後にまで迫っていたのだ。

 やがてベッテルは37周目に2回目のピットストップを迎えるが、4番手でコースに復帰。さらに直後の38周目に中団で4台が絡む多重事故が発生し、再びセーフティカーが導入されてタイム差が帳消しになったことも、ベッテルにとっては幸運だった。

 首位ライコネン、2位アロンソ、3位バトン、4位ベッテル。レースは13周を残して再開され、エキサイティングなクライマックスを迎えようとしていた。

「キミ、レース再開に備えてもっとタイヤを温めてくれ」(ライコネンのエンジニア)
「イエス、イエス、そんなのやってるよ!」(ライコネン)

 2009年以来の優勝へと向かおうというライコネンは、相変わらずのアイスマンぶりだ。一方、バトンも虎視眈々と狙っていた。フェラーリはレース再開直後に不安を抱えている。

「ジェンソン、アロンソはセーフティカー明けの数周は苦しむはずだ。こちらの方が速い。リスタートが重要だぞ。我々には勝てる速さがあるんだ、アロンソにアタックしろ」(バトンのエンジニア)
「フェラーリは直線最高速がものすごく速い」(バトン)
「ベッテルも同じくらいの速さだ」(エンジニア)
「キミはどうなんだ?」(バトン)
「彼は我々と同じくらいのはずだ」(エンジニア)

 43周目、セーフティカーがピットに戻り、レースは再開となった。タイヤのウォームアップに苦しむアロンソを尻目に、ライコネンは一気に差を広げにかかる。そしてバトンはアロンソ攻略を狙うが、逆に後方のベッテルの猛追を受けて防戦一方となってしまう。

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