【F1】予想外の好レース。波乱のアブダビGPで展開されたバトルの舞台裏 (2ページ目)

  • 米家峰起●取材・文 text by YoneyaMineoki
  • 桜井淳雄●撮影 photo by Sakurai Atsuo(BOOZY.CO)

 実はフェラーリは、このアブダビに多くの新パーツを持ち込んでいた。空力パッケージをガラリと一新するほどのもので、最終盤戦の逆転タイトル獲得に向けて勝負を賭けたアップデートだった。しかしその効果は思わしくなかった。

「金曜にテストしてみてパフォーマンスの向上は確認できた。でもそれは100分の何秒かというレベルで、ライバルだって同じようにそのくらいの新パーツは投入してくる。コンマ数秒離れたところにいる相手との差は、ほとんど変わらないということだ。まだまだ僕らには進歩が必要だ」(アロンソ)

 レース序盤は首位ハミルトンがファステストラップ連発で逃げ、2位ライコネンはついていけない。だが20周目、なんとハミルトンのマシンが突然スローダウンして止まった。燃圧が下がり突然エンジンが止まってリタイアしてしまったのだ。

 これで首位に立ったのはライコネン。そしてアロンソは21周目にようやくマルドナド(ウイリアムズ)をパスして2位に上がり、「ここから死ぬほどプッシュしていくぞ!」とレースエンジニアも檄(げき)を飛ばす。
「キミ、後ろのクルマはアロンソになった。差は5秒、彼のペースは追って伝える」
 ライコネンのレースエンジニアもすぐに伝えるが、ライコネンは泰然としていた。
「放っといてくれよ、そんなの見りゃ分かるんだから!」

"アイスマン"と呼ばれるマイペースのライコネンらしい反応だ。アロンソの後方ではウェバーもマルドナドをかわそうとするが、接触してスピンを喫する。続いてマルドナドに襲いかかったジェンソン・バトン(マクラーレン)は、タイヤをロックさせながらも前に出て3位に上がった。

 一方、ピットレーンからスタートしたベッテルは、予想以上に苦しいレースになっていた。1周目に20位、2周目18位、3周目16位、4周目14位と後方集団は易々と追い抜いていけたが、その先はなかなか思うように順位を上げていけない。2周目にはバトルの中でわずかにフロントウイングを接触させてダメージを負ってしまった。

「フロントウイングが壊れた!」(ベッテル)
「データ上問題はないから気にするな。良いペースで走れている。交換する必要があればなるべく早く伝えてくれ」(レースエンジニア)

 だが、さらなる不運がベッテルに襲いかかった。後方でメルセデスAMGとHRTが激しくクラッシュした事故処理のために導入されたセーフティカー走行中、ベッテルの目の前を走っていたトロ・ロッソのリカルドのマシンが急減速したのだ。

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