【F1】可夢偉の来季はどうなる?評価は高くてもシートが決まらない理由 (2ページ目)

  • 米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki 桜井淳雄●撮影 photo by Sakurai Atsuo(BOOZY.CO)

 メキシコの通信企業テルメックスから莫大な資金のスポンサードを受けているザウバーだが、その支援ドライバーであるセルジオ・ペレスが来季からマクラーレンに移籍することが電撃的に決まった。これはその能力に対する評価もさることながら、2013年いっぱいでタイトルスポンサーのボーダフォンとの契約が満了するマクラーレンが、テルメックス獲得に照準を合わせたことを意味する。

 ザウバーはすでに来季の契約はテルメックスと結んでいるが、2014年以降の計画が宙に浮いた形になったのだ。つまり、すでに2年後に向けてスポンサー確保に動かなければならないのだ。

 ザウバーとしては、可夢偉の能力はきわめて高く評価している。乗せたいのはやまやまだ。しかしペレスに代わるテルメックスの支援ドライバーをひとり乗せたあと、残りの1席に巨大スポンサーを持つドライバーを獲得して、2014年以降のチーム安定を図りたいという経営者としての思いもある。そこに可夢偉を乗せてしまうと、2014年以降のスポンサー獲得の可能性が狭まることになってしまうからだ。

 そこで名前が挙がっているのがニコ・ヒュルケンベルグなのだが、これには疑問の声を上げる関係者もいる。ヒュルケンベルグには、テルメックスに変わるほどの大スポンサーはついていないからだ。逆に現所属のフォースインディアはザウバー以上に資金持ち込み要求が厳しく、1500万ドル(約12億円)以上の持ち込みがなければ交渉のテーブルにつくことさえできないというほどだ。

また、チーム代表であるインドの大富豪ビジェイ・マリヤの財政が芳しくなく、保有しているドライバーとの契約を他に売却してさらに持ち込みドライバーを獲得したいという思いもある。ヒュルケンベルグに関する情報は、そうした方面からの駆け引きのためのリークだとも考えられる。

 その他、ベネズエラの企業から30億円を超える巨大資金を持ち込んでいるパストール・マルドナドもウイリアムズと契約を確定させているわけではなく、まだ他チームを物色中だと認めている。だが、きちんと完走できないドライバーをザウバーが獲得することは、チームの伝統的哲学からいってもよほどでなければ考えにくい。元トロロッソで今年はピレリのテストドライバーを務めたハイメ・アルグエルスアリは、すでにある中堅チームと契約をしたと発言したという。しかし、彼がさほど大きなスポンサーを持っているとの情報はない。

 今のザウバーのシートは、ドライバーたちにとって最も魅力的な席。次から次へと交渉相手が現れ、チームとしてもさまざまな選択肢を吟味しているところだ。その中には、テルメックスとの契約を事前解約して、その莫大な違約金によって今後数年間の財政安定を図るという選択肢もあるだろう。そうすれば空きシートは2席になり、ドライバー選択の自由度も高まる。

 こうした背景もあり、ザウバーの来季ドライバーラインアップ決定は遅れている。

 他チームでも同じような現象が起きており、フェラーリの1席(フェリペ・マッサ)、ロータスの2席(ロマン・グロージャンは石油会社トタルの支援があるが、昨今の危険走行に対する批判がやまなければ放出もあり得る)、フォースインディアの2席、トロロッソの2席(ただしレッドブル系に限られる)、ウイリアムズの2席(うち1席は事実上、育成ドライバーの若手、バルテリ・ボッタスで決まり)など、中堅チームのシートはまだまだ宙に浮いた状態だ。

 その中でドライバーとしての評価が最も高い者のひとりが、可夢偉であることは間違いない。フェラーリはエンジンサプライヤーであることからザウバーのドライバーふたりの能力も熟知しており、GP2時代の所属チームDAMSの代表だったロータスのエリック・ブイエ代表に至ってはトヨタ撤退直後の2009年末以来ラブコールを送るほどだ。

 誰がどこと交渉を進めており、どこに座るのか、まだはっきりとは見えてこない。アッと驚く意外な展開もあり得そうだし、どこかが決まれば玉突き的に決まっていく可能性もある。

 そんな中でザウバーは「シーズン末までに発表する」というスタンスだ。

 可夢偉自身としては、今さらスポンサー獲得活動に奔走するつもりはない。もちろん、支援してくれるスポンサーがあればうれしいし、その予算はチームのマシン開発費となり、速さとなって可夢偉に返ってくる。しかし、カネをもらって乗るのがすでに実力を証明したプロのレーシングドライバーであり、カネを持ち込まなければ乗ることができないF1なら乗らなくてもいいというスタンスだ。

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