【F1】歓喜の予選と失意の決勝。可夢偉が味わった「ベルギーの悲劇」 (3ページ目)

  • 米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki  桜井淳雄●撮影 photo by Sakurai Atsuo(BOOZY.CO)

 だが、その望みはわずか250mでほぼ絶たれてしまった。

 スタート直後に後方でロマン・グロージャン(ロータス)が他車と接触し、多重クラッシュが発生。グロージャンは5番スタートのセルジオ・ペレス(ザウバー)のマシンに乗り上げ、そのままルイス・ハミルトン(マクラーレン)、フェルナンド・アロンソ(フェラーリ)のマシンをヒットしながら可夢偉のマシンの上に飛び込んできた。

 なんとかリタイアだけは免れたが、押し出された可夢偉は最後方まで落ち、マシンにも酷いダメージを負って、もう想定していたようなレースができる状況ではなくなっていた。

「僕にはどうしようもなくて、まぁ、運が悪いとしか言いようがないですね......。クルマはだいぶダメージを負っててサイドポンツーンがボロボロになってて、ダウンフォースも全部なくなってて。だいぶ走りづらかったしタイヤも保たなくて。クルマを見れば分かりますよ、とても走れるような状態じゃないから。ホントに運がなかったですね」

 事故に巻き込まれた元凶は、スタート加速が鈍かったことだった。

 問題は、スタートシステムのセッティングをチームのエンジニアが読み間違えたことだった。路面のグリップやクラッチの状況を分析して、最適な"半クラッチ状態"を作り出すF1のスタートシステムは、ミクロン単位でのクラッチ位置の調整、タイヤの温め方、エンジン回転数の設定など、緻密なシミュレーションによる準備が必要なのだ。

 その分析と設定に、読み誤りがあった。そのため可夢偉のクラッチはつながりすぎ、後輪が大きくホイールスピンして加速が鈍ったのだ。

「クラッチが安定しなかったということらしくて、そこは僕にはよく分からないんですけど、レースで勝ちたいとかいうなら、そこをしっかり安定させないと勝てないって(レース後のミーティングで)しっかり言いましたけどね。それをやれるかどうかはエンジニア次第だし、あとはチームを信じるしかないですね」

 さらには交換したばかりのタイヤがクラッシュで出た破片を拾ってスローパンクチャーを起こし、再度のピットストップ。可能だったはずの入賞圏内への挽回さえもならず結果は13位。

 期待が大きかったぶんだけ余計に大きな失望に変わったレースの後で、可夢偉はあまり多くを語りたくはないという様子だったが、それでもこれで表彰台のチャンスがなくなったわけではないと明言した。

「何もなければ表彰台には行けたと思うんですけどね、全然問題なく。悔しいですけど、これがレースなんでどうしようもないですね。次のチャンスを待つしかないかなと思います。とにかく、自信を持って『まだチャンスはある』って言えるってことをクルマは示してくれたと思います。今日の感じだと、鈴鹿は間違いなく速いと思いますし」

 一歩も二歩も近付いた表彰台。そのゴール地点までたどり着く日は、いずれ来るはずだ。

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