【F1】歓喜の予選と失意の決勝。可夢偉が味わった「ベルギーの悲劇」 (2ページ目)

  • 米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki  桜井淳雄●撮影 photo by Sakurai Atsuo(BOOZY.CO)

 しかし、それが良かった。

「勘違いしてたんです。今日の朝のタイムから0.2秒くらいしか変わってないと思っていて、最後のセクターはあきらめながら意地になって無理矢理走ったらそれが決まった、みたいな(笑)。走り終わってタイムを見て『あれ?』みたいな(笑)」

 2004年ヨーロッパGPの佐藤琢磨以来の、日本人過去最高位タイの予選2位。

 しかし、予選後の可夢偉は決して上機嫌ではなかった。予選になって発覚したマシンの不調がひっかかってたようだ。

「あんまりクルマが決まってるっていう感じじゃなかったんです、実際。スパは僕らのクルマに合ってるから、それなりに高いポジションを期待してはいたし午前中のフリー走行からクルマには自信があったけど、まさか2番に入れるとは思ってなかったし」

 だが、このポジションからのスタートともなれば、表彰台獲得の期待も俄然高まってくる。いや、現実的に考えてもその可能性は十分に高いと思われた。

 可夢偉自身の手応えも、それは同じだったようだ。

「表彰台こそがいまの僕らに必要なものやし、それを頑張るのみです」

 可夢偉ははっきりとそう言った。

 日曜の午後2時、フォーメーションラップを終え、2番グリッドについた可夢偉のフロントタイヤから白煙が上がる。長い静止時間によって、カーボン製のブレーキが過熱したのだ。

 なんと可夢偉は、1周目に勝負をかけ首位を奪い取ろうとさえ狙っていた。そのために、他車よりもタイヤとブレーキを十分に温めて、走り出しから好パフォーマンスを発揮させようとしていた。だから可夢偉のマシンだけがあの白煙を上げていたのだ。走り始めれば走行風で冷えるため実際の運用には問題はなく、可夢偉は冷静に首位ジェンソン・バトン(マクラーレン)の捕獲だけを考えていた。

 1周目のオールージュを登った先にある長いストレートエンドにあるヘビーブレーキング。しっかりと温まったブレーキでそこに臨めば、ブレーキ競争で可夢偉が前に出るシーンは容易に想像できた。

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