【F1】産みの苦しみ。可夢偉が成長途上のチームに怒った原因とは? (2ページ目)

  • 米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki
  • 桜井淳雄●撮影 photo by Sakurai Atsuo(BOOZY.CO)

 豪雨による赤旗中断が解かれ、残り6分間の走行。そこで可夢偉は強硬にウエットタイヤの使用を主張したが、チームは彼に浅溝のインターミディエイトを履かせてコースインさせた。他車が皆ウエットを履くコンディションの中でインターミディエイトではまともな走行もできず、可夢偉はすぐにピットに戻ってウエットに履き替えることになった。

 このタイムロスが響き、残り時間で可夢偉に許されたのは1周のアタックのみ。それでは充分なプッシュなどできるはずもなかった。

「あれだけ雨が降ってるし、どこがどれだけ濡れててどれだけ乾いてるか分からないし、どこまでプッシュすればいいか分からないし。他のみんなはプッシュして(路面状況を)勉強してから最後にアタックしてるのに、僕はいきなりアタックなんやから。どこまで行っていいか分からんし、もちろん飛び出したらゲームオーバーやし」

 実は、可夢偉がこれだけ不快感を表したのには、伏線があった。

 降雨が十分に予想されていたイギリスGPでは、いざというときのタイヤ選択などはドライバーに任せてほしい、と事前にチームに伝えていた。それなのに、セッションが始まり慌ただしい状況になると、可夢偉のその声は揉み消された。そのことに可夢偉は怒っていたのだ。

「昨日、『今回は俺の言うことを聞け』って言うたんです。『テレビで見るよりもドライバーの方が見てるし、どっちのタイヤが良いかっていうのはいつも以上にドライバーの方が分かるんやから』って。ミーティングで全員に向かって言うてるのに、予選が始まったら聞いてくれないし。始まったら舞い上がっちゃうんですよ」

 ヨーロッパGPで痛感したように、規模も予算も小さなチームであるザウバーには、トップチームと同レベルのチーム力はない。今季はマシンの出来が非常に良く、マシン特性に合ったシルバーストンではかなり上位が狙えるはずだった。事実、雨の予選前半では、ザウバー勢は常に上位につけていたほどだった。これまでにも、中国やスペインなど、純粋な実力勝負で上位争いができる速さを持っていたレースもあった。

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