【MotoGP】勝敗の分かれ目!? タイヤを巡る水面下の戦い (2ページ目)

  • 西村章●取材・文 text by Nishimura Akira
  • 竹内秀信●撮影 photo by Takeuchi Hidenobu


 昨年の最終戦翌週の事後テスト等でもこれらのタイヤは評判がよく、リアの改善に応じてフロントのさらなる改良を求める声が選手たちから多く上がった。

 それを受けてBSは、年明けのテストからフロントの構造に手を加えたタイヤを評価用として投入。開幕前の最終テストでは、さらにもう一種の評価用タイヤを投入した。だが、この二種類の評価用タイヤを巡って選手たちの好みが分かれた。

 とはいえ、一刻も早く実戦で使用したいという声は高く、会合が持たれることになった。BSがどちらの評価用タイヤを実戦投入するか決定するのは競技の公平性を欠く、という観点から、レースを主催するDORNAのセーフティアドバイザー、FIM(国際モーターサイクリズム連盟)のテクニカルダイレクター、IRTA(国際ロードレースチーム協会)プレジデントの三者が協議し、最初に投入したほうの評価用タイヤを第2戦スペインGPから、従来のフロントタイヤに加えて各2本ずつ供給することになった。

 さらに、タイヤ生産が軌道に乗る時期を勘案し、6月中旬のイギリスGPからはフロントタイヤはすべて新構造のものに切り替わることも決定した。

 自分たちの好むほうの評価用タイヤを採用されなかった選手や陣営にしてみれば、この決定は不本意だったようだ。具体的には、レプソルホンダのケーシーとペドロサが、第2戦から投入されている新構造タイヤではない方の評価用タイヤを支持していた。

 つまり、彼らにしてみれば、フィーリングの良くなかった新構造のフロントタイヤよりも、うまく機能している現行のタイヤのほうが乗りやすい、ということにもなる。

 じっさいに、ストーナーは第3戦終了段階では新構造を履いていないし、ペドロサも第3戦の予選までに試しはしたものの、決勝レースでは従来構造のフロントタイヤを選択している。一方、今回2位に終わったロレンソは、新構造のフロントを最初から高く評価し、決勝にもこれで臨んでいる。

 ここから想像できるのは、フロントタイヤがすべて新構造に切り替わる第6戦イギリスGPを境目に、戦力バランスは大きな変化をきたす可能性がある、ということだ。

「新構造と従来構造の両方を選べるようにしておいてほしい、という声もあるけれども、選択の余地を残すと安全なタイヤよりも速いタイヤが選ばれる可能性は否定できない。だから、安全性という見地からは選択の余地を残してはいけないし、公平さという面でもこれはワンメークの基本だと思う」と山田は言う。

「いずれにせよ、全員が100パーセント満足するものはありえないなかで、我々がどちらを選ぶか判断するのは公平性を欠く。だからこそ、第三者に決定をしてもらった」

 そして、山田はこうも続ける。
「ホンダは絶対に底力を発揮して、この新構造フロントタイヤの性能を最大限に引き出してくるはず。イギリスGP以降、レプソルホンダの両選手が遅くなるとは思っていません」

 余談になるが、低迷を続けるドゥカティ陣営も、このイギリスGPでは新エンジンを投入する可能性がある。いずれにせよ、三社三様の開発事情が明らかになる第6戦は前半戦の天王山になりそうだ。

 そして、そこに一歩近づく次戦の第4戦フランスGPでも、大きな山場へ向けた伏線と仕掛けはすでに始まっているのだ。

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