【F1】4戦目で今季初勝利。
王者ベッテルは本当に目覚めたのか?

  • 米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki
  • 桜井淳雄●撮影 photo by Sakurai Atsuo(BOOZY.CO)


 今年に入って、ベッテルが昨年のように予選でポールポジションを穫ることができなかったのは、マシンの仕上がりのせいだった。前後のグリップバランスが安定せず、コーナーごとに挙動特性が変わってしまう。そのせいで、ある程度のマージンを残した走りに徹さざるを得ず、昨年のような鬼気迫る限界ギリギリのアタックができなくなっていたのだ。

「何か根本的な問題があるわけじゃないし、ダウンフォース量がどうという問題でもない。ただ、すべてがうまくまとまっていないというだけなんだ。挙動がとてもナーバスで動き回る。マシンバランスが去年ほど良くないんだ。そのせいでマシンのポテンシャルをフルに引き出せないでいる。予選で最後のコンマ数秒を引き出すためには、それがカギになるんだけどね......」

 開幕戦から訴え続けたその問題が、4戦目になってようやく解決に向かい始めた。それがバーレーンGPでのポールポジション獲得だった。

 その端緒は、中国GPにあった。

 レッドブルは開幕直前にエンジンの排気管をアップデートし、空力性能の向上を狙っていた。しかしマシンバランスに苦しむベッテルは、上海でこれを初期型に戻して戦う決断をしたのだ。

 レース終盤にタイヤ性能が低下して後退し、成績は決して良いものとはならなかったが、しかし、これによってレッドブルとベッテルは改善のための大きなヒントを手に入れていたのだ。

「中国では僕とマーク(・ウェバー)で別々の種類のパッケージで走り、自分たちのマシンの弱点をさらに知るための良い教訓になった。セットアップの方法やタイヤの使い方を学ぶことができたんだ。それで、今回のバーレーンでは新しいパッケージにもう一度戻したんだ」

 ガレージではマシンに次々と変更が加えられ、メカニックたちの作業は連日深夜まで及んだ。この開幕4戦の間、彼らの平均睡眠時間は2、3時間ほどでしかなかった。そのハードワークが、ついに報われたのだ。

「クルマのフィーリングはずいぶん良くなったし、速く走れるようになったよ。今回も予選はスムーズというわけではなかった。Q1でも脱落ギリギリだったし、Q2だってそうだった。でもなんとかタイムを削ってQ3に進めば、こうして良い結果が手に入るんだ。

 スタートが決定的だった。そこからすぐに後続を引き離すことができて、それが大きなアドバンテージになったんだ。ロータスはとても速かったけど、今日は僕らの戦略がすべてうまくいったね」

 その言葉どおり、今季初めて「すべてをきちんとまとめた」ベッテルが、強さを見せた昨年と同じようにポールトゥフィニッシュを飾った。

 また、ベッテルと同じように、バーレーンで今季初めてミスのない週末を送ったロータス勢は、本来の力を発揮してダブル表彰台を獲得。F1復帰後初の表彰台獲得(2位)となったキミ・ライコネンも、こう語る。

「これまでの3戦だって、僕らはそんなに悪いポジションにはいなかった。速さがあるのは分かっていた。あとは正しい判断をしてすべてをきちんとまとめ、本来のポジションに持ってくるだけだった。今週末はそれができたってことさ」

 その一方で、予選で好走を見せながらも決勝で集団に埋もれたマクラーレン勢は浮上のきっかけをつかめないままレースを終えた。

 開幕から3戦のレッドブルの不振と今回の復活劇、そしてロータスの急浮上と表彰台獲得は、まさに混沌とした今シーズンのF1を象徴するものだったと言えるだろう。

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