ウマ娘では「復活」を遂げたサイレンススズカ。宝塚記念は史上最強の逃げ馬が制した唯一のGⅠだった

  • 河合力●文 text by Kawai Chikara
  • photo by Kyodo News

 これが正解だった。5歳(現4歳)となった1998年、くすぶっていた大物は、歴史に残る走りを見せる。スタートすると、栗毛の鮮やかな馬体がスッと先頭に立つ。そこでペースを緩めず、さらに後続を引き離していく。レースによっては、後ろを1秒以上、何十メートル離すことも珍しくない。サイレンススズカは2000m付近のレースを主戦場にしたが、この距離では、通常、前半1000m57秒台なら相当なハイペース。普通そのラップでいけば失速のリスクがあるが、サイレンススズカは止まらなかった。むしろ、後半で突き放してしまうのである。

 こうしたスタイルを手に入れたサイレンススズカは、この年、圧勝に次ぐ圧勝を決める。まずは2月から3連勝。4連勝目のGII金鯱賞(中京・芝2000m)では、GⅠ馬もいる中で、最初から飛ばしに飛ばし、他馬をはるか後方に突き放す。3コーナーではひと息入れて、また再加速。その結果、2着に1秒8の大差をつけて圧勝した。

 1分57秒8の勝ちタイムはレコード。2着馬は10馬身以上後ろにいた。最初からあのペースで飛ばして、そのままバテないなら、他の馬は勝つ術がない。1頭だけ違う次元にいるようだった。

 続いて挑んだのが、1998年のGⅠ宝塚記念(阪神・芝2200m)。連勝中とはいえ、今度の舞台はGⅠ。さらにこの日、武豊は先約のエアグルーヴ(GⅠ通算2勝)騎乗することになった。こういった不安要素がありながら、サイレンススズカは1番人気に支持された。

 代打騎乗となったベテランの南井克巳を背に、いつもどおりスタートからマイペースに飛ばしていく。騎手が押して先頭に導くわけではない。無論、抑えることもない。サイレンススズカの思うままに、先頭に立つ。

 ただ、4コーナーでは大きく離していたリードがみるみる詰められた。一瞬、不安がよぎったものの、そこからもう一度加速。最後は迫り来るライバルを4分の3馬身振り切ったのだ。

 こうしてGⅠタイトルを射止めたサイレンススズカ。だが、それ以上に印象深いレースがある。次走のGII毎日王冠(東京・芝1800m)だ。GII戦であり、本来ならその後に控える大レースの"前哨戦"という位置づけだが、全国の競馬ファンが熱狂した。

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