ウマ娘の初代主人公・スペシャルウィーク。その数奇な運命、武豊との出会い、ダービー優勝 (2ページ目)

  • 河合力●文 text by Kawai Chikara
  • photo by AFLO

 武騎手がダービーを5勝した今となっては信じられないが、この天才ジョッキーにとって、競馬界最高峰とされるダービータイトルは鬼門だった。騎手デビューから軒並み大レースを制する中、ダービーは9連敗。特にスペシャルウィークの2年前、1996年には圧倒的1番人気(単勝オッズ2.3倍)のダンスインザダークで勝てるかと思いきや、7番人気フサイチコンコルドにゴール前で強襲され、2着に沈んだ。

 武豊はダービーを勝てない――。そう言われるなか、スペシャルウィークは武騎手とのコンビでデビューし、4戦3勝、重賞2勝の成績で3歳春を迎えた。目指すは3歳馬が世代限定で挑む三冠クラシック(皐月賞・日本ダービー・菊花賞)。その頂点にダービーがあった。

 第1弾の皐月賞を1番人気ながら3着と落とし、またも"嫌なムード"が若干漂っていた1998年の日本ダービー。それでも圧倒的1番人気となったスペシャルウィークと武騎手は、スタートから中団を進む。そして直線、馬群の間を割って抜け出すと、ここからが早かった。一瞬の加速で瞬く間に後続を突き放したのだ。

 ゴールまで勢いは衰えることなく、終わってみれば5馬身差の圧勝。勝つ時はこれほどあっさり決まるものか、と思った記憶がある。

 しかし、実際は相当な重圧を感じていたのだろう。直線で抜け出した時、武騎手はムチを落としてしまったのだ。さらにゴール後、彼は生涯でも一、二を争うほどの大きなガッツポーズを見せていた。

 天才ジョッキーが重圧を背負うなか、そのプレッシャーを跳ね除けて力強く抜け出したスペシャルウィーク。あの時の頼もしさが印象に残っている。幼い頃から波乱の境遇で育った馬にとって、また、ダービーに手が届かなかった若き名手にとって、最高の人馬の出会いだっただろう。

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