ウマ娘の人気キャラもいっぱい。天皇賞・秋で名馬たちが繰り広げた数々の極上ドラマ (3ページ目)

  • 河合力●文 text by Kawai Chikara
  • photo by Kyodo News

 ウマ娘のアニメ第1期でも主人公を務めるなど、まさに絵になるキャラクター。前髪だけ白いのが印象的だが、それは競走馬スペシャルウィークの額に大きく入った、父サンデーサイレンス譲りの白い流星がモチーフとなっている。

 デビューから鳴り物入りだったスペシャルウィークは、一度も3着以内を外さない強さを見せていた。しかし、唯一7着と大敗したレースがある。この天皇賞・秋の前に出たGⅡ京都大賞典(京都・芝2400m)。直線でまったく伸びない姿はショッキングであり、この年での引退も決まっていたからか「スペシャルは終わった」という声も聞かれた。実際、今まで1〜2番人気しか経験したことのなかったスターホースが、天皇賞・秋では4番人気に甘んじたのである。

 しかし、その舞台で「逆襲のラン」を見事に決めた。この日の馬体重は、前走からマイナス16kgの470kg。管理する白井寿昭調教師が「ダービーの時の馬体重(468kg)に近づければ目覚めてくれるかもしれない」と考えた結果だった。

 さらにスタート後、武豊は17頭中14番手まで大胆にポジションを下げる。最近のレースではかなり後方の位置取りであり、場内からはどよめきが起こった。

 スペシャルウィークは復活できるのか――。不安と疑念が入り混じった直線。そんなファンの思いに対し、まるで答え合わせをするかのように、はるか後方にいた白と紫の鮮やかな勝負服が伸びてきた。大外から一歩一歩詰め寄ると、計ったようにゴール前で差し切ったのである。すばらしい復活劇だった。

 そしてこのレースには、もうひとつの物語がある。前年の天皇賞・秋、武豊は5連勝中で断然の1番人気、サイレンススズカに騎乗。しかし4コーナーで故障発生し競走中止に。帰らぬ馬となってしまった。

 その悲しみから1年後、スペシャルウィークが劇的な勝利を飾った。武豊はレース後、「ゴールの瞬間、まるでサイレンススズカが後押しをしてくれたようでした」と語っている。1年前の思いも含んだ、渾身の騎乗だった。

3 / 5

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る