ウマ娘で「復活」を叶えたサイレンススズカは、史上最強の逃げ馬だった (3ページ目)

  • 河合力●文 text by Kawai Chikara
  • photo by Kyodo News

 この年、サイレンススズカのひとつ下の世代に、恐ろしい怪物が2頭いた。1頭はエルコンドルパサー。デビューから5連勝で同世代のGⅠを制覇。のちにヨーロッパへ長期遠征し、世界最高峰とされる凱旋門賞で2着に健闘した馬だ。

 もう1頭はグラスワンダー。こちらもデビューから4連勝で同世代のGⅠを勝利。その後、骨折を経て挑んだ毎日王冠だった。同馬も、のちにGⅠを3つ制している。

 いずれも、いまだ負けなし。それも圧勝の連続だった。その2頭が、5連勝中のサイレンススズカと対決する。東京競馬場の観客は13万人。GⅠのような雰囲気である。

 そして当日のレースは、見た人の心に一生残る衝撃を与えた。といっても、3頭の大熱戦が展開されたわけではなく、サイレンススズカのあまりの強さに衝撃を受けたのだ。

 いつものように栗毛の馬体が先頭に立ち、自分のペースで進んでいく。1000mは57秒7。サイレンススズカのペースだ。4コーナーを迎えると、グラスワンダーが一気に上がる。エルコンドルパサーはまだ仕掛けない。湧き上がる歓声。直線ではどんな攻防が繰り広げられるのか。期待は膨らんだ。

 しかし、誰もサイレンススズカの影を踏むことはできなかった。それどころか、馬上の武豊はムチさえ抜かなかった。エルコンドルパサーが2馬身半差の2着になるのが精一杯。サイレンススズカの完勝だった。

 一戦のみで3頭の勝負が決着したとは言えない。ただ、無敗の怪物2頭をあっさり負かしたサイレンススズカの強さは、受け止めるのに時間がかかるほどだった。このとき、実況が叫んだ「どこまでいっても逃げてやる」というフレーズに、多くの人が共感したことだろう。

 どこまでいっても、どんな相手が来ても、永遠にこの馬には追いつけない。確かにそう感じるレースだった。あの武豊が、のちに「世界一強いと思った」「サラブレッドの理想」とこぼしたのである。

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