ナリタブライアンの怪物への「確変」を目の当たりにした朝日杯の爆走 (2ページ目)

  • 新山藍朗●文 text by Niiyama Airo
  • photo by Sankei Visual

 主戦の南井克巳騎手の感触では、「オグリキャップのようだ」と感じるほどの高い能力を秘めていた。だがその一方で、レースで自分の影に怯えてしまうほど、臆病だった。おかげで、とんとん拍子に勝ち上がることができなかった。

 そこで、「何とかしなければ......」と考えた陣営のアイデアのひとつが、シャドーロールを装着することだった。

 シャドーロールは馬の目の下に装着して、下方への視界を遮る矯正馬具。当時の日本でも知られてはいたが、今ほど一般的ではなく、そうした馬具を用いる馬はごくわずかだった。

 だが、ナリタブライアンにとって、この効果はテキメンだった。

 シャドーロールの装着によって、下方への視界を遮られたことで、自らの影に怯えることがなくなったナリタブライアン。よりレースに集中するようになって、南井騎手が感じた「オグリキャップのようだ」という高い能力を存分に発揮し始めた。

 シャドーロールを装着した初めてのレースが6戦目の京都3歳S(当時)。ここで後続に3馬身差をつけて勝つと、次戦ではGI朝日杯3歳S(当時。現朝日杯フューチュリティS)へと駒を進めた。

 この時、ナリタブライアンは1番人気に支持されたものの、圧倒的な人気ではなかった。何頭かいる有力馬の1頭にすぎず、押し出される形で1番人気となった。

 つまり、多くのファンも、関係者も、シャドーロールを装着したことによるナリタブライアンの"確変"に、まだ気づいていなかった。

 迎えたスタート。ゲートが開くと、果敢に飛ばす先行各馬を尻目に、ナリタブライアンは中団やや後方に待機。道中もそのポジションを維持し、後方馬群の先頭でじっと脚をタメていた。

 ただ、その脚取りからは軽快さは感じられず、どちらかと言えば、ややおっつけ気味に見えた。普通の馬であれば、不安が募る状況だが、ナリタブライアンにとっては、それもひとつの特徴で、凄いのはそこから。スピードに乗ってからの加速と、その持続力にある。

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