ウオッカが主役、阪神JFの衝撃。伏兵から名牝への道を歩み始めた一戦 (2ページ目)

  • 新山藍朗●文 text by Niiyama Airo
  • photo by Kyodo News

 ただそれ以前に、阪神JFにおいては、アストンマーチャンという有力なクラシック候補が存在していたこともある。同馬はそれまでに4戦3勝。重賞2連勝中だった。しかも、前走のGIIIファンタジーS(京都・芝1400m)では5馬身差の圧勝。鞍上が天才・武豊騎手となれば、断然の人気になるのは当然である。

 折しも、阪神競馬場はこの年、馬場の改修工事が終わったばかりだった。それ以前は、マイル戦においては1コーナーまでの距離が短く、「紛れが出やすいトリッキーなコース」と言われていたが、その点が解消され、最後の直線も長くなっていた。その結果、全馬が持てる力を存分に発揮できる「公平なコースになった」と言われた。

 そのコースであれば、ファンタジーSで見せたアストンマーチャンの鋭い差し脚が、さらに威力を増すはず。多くのファンや関係者がそういった判断を下すのも頷ける。

 しかしながら、そうした状況にあって、密かに「自分の馬にもチャンスがある」と思っていた騎手がいた。ウオッカの主戦を務める四位洋文騎手である。

 四位騎手はデビュー前の調教に乗った時から「この馬はモノが違う」と、ウオッカの桁違いの素質を感じ取っていた。古馬のような落ち着いた雰囲気に加えて、A級馬ならではの「高級外車の乗り心地があった」と、のちに振り返っている。

 ゆえに、四位騎手の中では、前走で追い込み切れなかったのは「調整不足が響いたもの」といった結論がなされ、「パンとすれば、あんなことはない」と思っていた。

 迎えた阪神JFのスタート。

 ゲートが開いて、出足よく飛び出していったウオッカは、直後にややポジションを下げて、先行集団を見る位置でレースを進める。そのウオッカの目の前に、同じく好スタートを切ったアストンマーチャンがいた。

 道中、ウオッカはアストンマーチャンをぴったりとマークするように追走。そのまま直線を迎えた。そうして、距離のロスないインコースから、アストンマーチャンが一気に抜けていく。その動きにどの馬もついていくことができず、後方馬群との差は広がる一方だった。

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