コントレイルが無敗の三冠馬に。宿敵ルメールの戦術に引き出された本気 (2ページ目)

  • 新山藍朗●文 text by Niiyama Airo
  • photo by Kyodo News

 実は、レースのビデオ映像を見返すと、アリストテレスはスタート直後から、コントレイルの外側をずっと離れずに追走している。それは、見ようによっては、コントレイルに無言の"圧"をかけているようにも、コントレイルの行く手を阻んでフタをしているようにも、見えた。

 それこそ、コントレイルを「簡単に勝たせるわけにはいかない」という、名手ルメール騎手のプライドであり、練りに練った高等戦術だったに違いない。

 事実、この日のコントレイルはいつもと様子が違った。

 今までのレースでは、道中何があっても、我関せずと落ち着き払っていたが、この日はどこか落ち着きがなく、しかも、しきりに行きたがって、道中のペースが落ちると、引っかかりそうになっていた。

 もともと「3000mの長丁場は向かない」と言われていたが、この日、コントレイルが落ち着きをなくしたのは、そうした懸念だけが要因ではないだろう。アリストテレスを操るルメール騎手がかけ続けた、"無言のプレッシャー"を感じていたことは間違いない。

 福永騎手もレース前から、アリストテレスという馬に対しては、相当な警戒心を持っていたらしい。関西の競馬専門紙記者がこう証言する。

「福永騎手自身、アリストテレスにはこれまでに2回騎乗しています。当時はまだ成長途上で、レースで勝つことはできませんでしたが、それなりに能力の高さを感じ取っていたようです。その馬にルメール騎手が乗ることになって、一層警戒心を強くした、という話を聞いています。でも、まさかここまで肉薄されるとは、思ってもいなかったでしょうね」

 アリストテレスも、ルメール騎手も、さすがである。だが、その馬に一度も抜かせず、クビ差を保ったままゴールしたコントレイル。世代最強の実績と実力は、やはり伊達ではなかった。

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