ディープインパクトの大成秘話。忘れられない牧場スタッフのひと言 (2ページ目)

  • 新山藍朗●文 text by Niiyama Airo
  • photo by Kouchi Shinji

 2002年に行なわれた当歳時のセレクトセールで、サンデーサイレンス産駒の牡馬は14頭落札されたが、そのうち、ディープインパクトの落札額は上から9番目だった。しかも、サンデーサイレンス産駒なら1億円超えは当たり前という時代にあって、7000万円(税別)でしかなかった。

 だが、のちにこのことが、ディープインパクトにとっては「幸運だった」という話を、生産牧場であるノーザンファームに取材で訪れた際、聞いたことがある。

 ディープインパクトの特徴は、サラブレッドにしては小柄で華奢なことだ。そのため、スタッフが「本当は牝馬ではないか?」と疑ったというエピソードもある。蹄(ひづめ)も薄く、一生懸命走るとすぐに血だらけになった。

 デビュー前の評価は、ひと言で言って「小さくて虚弱」。ゆえに、同期の馬たちと同じようには調教メニューをこなせなかった。

 同期の馬たちが、デビューを目指して牧場の坂路コースを駆け上がっている頃、ディープインパクトは1頭だけ、自分の体を大きくするための地道な体力作りに専念しなければならなかった。

 やがて2歳の夏。同期の馬たちが次々とデビューを果たしていく。だが、ディープインパクトは、まだ牧場にいた。

 秋になって、ようやく栗東トレセンの池江泰郎厩舎に入厩するが、デビューまでには、さらに3カ月ほど待たなければならなかった。

 以前の取材時、「実は(ディープインパクトは)もっと早い段階でデビューさせようと思えばさせられた」という話も、ノーザンファームのスタッフに聞いた。

 そのスタッフは続けて、「もし、ディープインパクトがもっと値段の高い期待馬で、しかも、あの厩舎で、あのオーナーでなかったなら、おそらく見切り発車でデビューしていたのではないか」とも言っていた。

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