ディープインパクトの大成秘話。忘れられない牧場スタッフのひと言

  • 新山藍朗●文 text by Niiyama Airo
  • photo by Kouchi Shinji

 ディープインパクトが死んだ。

 以前から首の痛みの治療中だったが、7月30日の朝の検査で頚椎(けいつい)に骨折が見つかり、回復不能と判断されたことから、安楽死の処置が取られたという。

 人間にたとえれば、まだまだ働き盛りの50~60代に相当すると言われる17歳。同じ三冠馬のシンザンは35歳まで生きたし、そこまでいかなくとも、20代半ばと言われるサラブレッドの平均寿命と比較しても、「早すぎる死」だった。

 2002年生まれで、史上6頭目の三冠馬。2006年の有馬記念で引退するまで、14戦12勝という成績を残した。

 2007年から種牡馬となると、ここでも期待にたがわぬ大活躍。2012年から7年連続でリーディングサイアーに輝き、父サンデーサイレンスの跡を継ぐ"ディープインパクト時代"を築き上げた。

 現役時代も、種牡馬となってからも、ディープインパクトが残した偉業は枚挙にいとまがない。

無敗のまま、史上6頭目の三冠馬となったディープインパクト無敗のまま、史上6頭目の三冠馬となったディープインパクト けれども、本当の偉業はむしろ、そのような数字などでは表わせないところにある、と言えるのではないだろうか。

 ディープインパクトの現役時代、すべてのレースで手綱を取った武豊騎手は「私の人生において特別な馬」というコメントを残した。

 同じく、私たちファンにとっても、ディープインパクトは「特別な馬」だった。

 スピード、切れ味、レースぶり......そのいずれにおいても、ディープインパクトは真の"最強馬"を実感させてくれた。

 極上のサラブレットとはかくあるべし、という、その「かくあるべし」を次から次へと現実にして見せたのだ。

 ディープインパクトが現われる前と後では、多くの競馬ファンの"最強馬"のイメージが変わったに違いない。ディープインパクトの出現によって、多くの人がそれまで抱いていた"最強馬"のイメージを上書きした。

 つまり、ディープインパクトは"最強馬"の領域を、さらに一段高い次元へと広げたわけで、その点において、とりわけ稀有な存在なのだ。

 とはいえ、ディープインパクトは生まれながらにして、周囲の期待を一身に集めていたわけではない。

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