宝塚記念で思い出すメジロライアン。
戦法転換でついに無冠を返上した

  • 新山藍朗●文 text by Niiyama Airo
  • photo by Nikkan sports/AFLO

 ただ詰めが甘い、というだけではない。メジロライアンがいた頃の競馬シーンには、メジロマックイーンにしろ、オグリキャップにしろ、競馬史の中で名馬と語り継がれるような強力なライバルがいた。

 その意味では、確かに詰めも甘かったが、運もなかった。

 年が明けて挑んだGI天皇賞・春(京都・芝3200m)でも、再びメジロマックイーンの後塵を拝した。

 またダメか......。

 何度期待されても、期待に応えられない。メジロライアンに注がれるファンの目は、ますますシビアなものになっていく。

 そして、迎えた宝塚記念――。

 スタート後、2~3番手につけたメジロライアンは、道中ずっとその位置をキープし、虎視眈々と抜け出すタイミングを計っていた。

 やがて、勝負どころとなる3角手前を迎える。メジロライアンは徐々に前をいく馬を捕らえにかかり、3~4角中間あたりで、早くも馬群を割って先頭に踊り出る。

 メジロライアンのいつもとは違う戦法と、いつになく強気な姿勢に、場内のファンは鋭く反応。「ウォーッ!」とも「ドゥオーッ!」ともつかない大歓声が競馬場にこだました。

 4角から直線を向くと、さらに後続を引き離しにかかるメジロライアン。2番手以下との差がみるみる開いていく。あとは、ゴールまでまっしぐらだ。

 そこへ、メジロマックイーンが追いかけてくる。外、外を回りながら、一完歩ごとに差を詰めてくる。

 だが、このときばかりは、メジロライアンの「負けてなるか」のファイティングスピリットは衰えない。真っ先にゴール板を駆け抜けていった。

 終わってみれば、2着メジロマックイーンとの間には、1馬身半の差がついていた。

 完勝だった。菊花賞、天皇賞・春と、まったく歯が立たなかった相手にそれだけの差をつけて勝ったのだ。

 かくして、メジロライアンは"無冠"を返上。晴れてGI馬の仲間入りを果たした。

 後方一気を得意としていた馬が、好位・先行に戦法を変えた途端、それまでの"詰めの甘さ"が解消。想像以上の強さを発揮する――こうしたことは、競馬では少なからずある。

3 / 4

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る