渡仏した小林智調教師が語る「フランス競馬界の日本へのリスペクト」 (2ページ目)

  • 小川由紀子●文・写真 text & photo by Ogawa Yukiko

小林 シャンティイの場合は特殊です。いや、シャンティイだけでなく、おそらくフランス競馬界における日本競馬の位置、というのが特殊なんです。アジア人が免許をとって開業したら、嫌がらせがあってもおかしくないと思いそうなものですが、されたことは1回もないんです。

 社台の吉田善哉(元社台グループ総帥)社長の時代から、シンボリの和田(共弘/元シンボリ牧場代表)さんやサクラの全(演植/元さくらコマース社長)さん、日本ホースマンクラブや、(武)豊さんがいて、みなさんが日本競馬界の信用を築いてこられた。たとえば日本の会社に請求書を出せば、5日後には支払われている。そういうことも大事なわけです。そうやって先代たちが実績を作ってきてくださった。

 こちらに研修に来る人たちも、外国に行って学ぼうという意識のある人だけにモチベーションが高いので、来たら言葉がわからないなかでも真面目に仕事をするわけです。シャンティイの競馬厩舎では、日本人が来たら嫌な顔はされません。言葉がわからなくても扱いが違うんですね。

 凱旋門賞もイギリスの馬が勝つくらいなら日本の馬に勝ってもらいたい、くらいにフランス人たちは思っていますから!

――それほどまでに日本の好イメージが。

小林 フランス競馬界の人たちが持っている日本のイメージはすごくいいです。イギリスに行ったらそれはないので、フランスでいかに日本競馬界が尊敬されているかということです。僕が意地悪をされていないのは何よりの証拠ですよね(笑)。

 なので、僕も調教師になって活動するからにはそれを守らないといけない。壊しちゃいけない、という意識は常に持っています。先人たちが作ってきてくれたものであって、自分だけじゃなく、いろいろな人の実績や思いが残っているわけですから。

 勝負服を置きにジョッキーの更衣室に行ったりすると、バレットさんが「ユタカは今度はいつくるんだ?」と僕に聞いてくれる。みんなが、豊さんがフランスに来るのを心待ちにしている。みんなが信用を作ってきているんですよね。

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