フランス競馬界で知らぬ者はない、
小林智調教師が現地で開業するまで

  • 小川由紀子●文 text by Ogawa Yukiko  photo by AFP/AFLO

――そして、実際にバルブ氏を頼って渡仏した。

 バルブさんの存在は大きかったです。何でもできる人ですし、ジョン・ハモンドさんを紹介してくれたのも彼です。ハモンドさんはモンジューとスワーヴダンサーで2度、凱旋門賞を勝っている方です。ハモンドさんのところでは「1日に50頭の脚を見られる」というベテラン厩舎長から徹底的に厩務員の知識を叩き込まれました。

――50頭の脚を?

小林 脚元を見るのは経験、まさにそれだけなんです。ちょっとモヤっとしていても、ただ寝ていただけなのか、ちょっとおかしいのか、経験を積んだ人しかわからない。ちょっと腫れているけれど、今日キャンターできるのかどうか、ということはずっと見ていた人でないとわからないんです。

 それを1日でその頭数を見られるんですから、それに優る教材はないですよ。毎日、毎日、厩舎にいる70頭を2人で見ていくわけですから、1日に35頭は見られる。それを365日、2年間やりました。あの経験は大きいですね。

 そこで3年ちょっと働いたあと、親日家としても知られるリチャード・ギブソン調教師のところでお世話になりました。イギリスの『レーシングポスト』紙にアシスタントトレーナーを募集しているという広告が出ていて、バルブさんの奥さんのヘレンさんが「これやってみたら?」と。

 リチャードさんのところでは2年間みっちり調教師の仕事を教えてもらいました。110頭を3人で見ていて、それを丸々2年やらせてもらえたので、「フランスで調教師になれるんじゃないか?」と思い始めたのはこの頃です。

――そしてフランス語で調教師試験を?

小林 フランスに来て、3年目くらいからフランス語も話せるようになっていました。リチャードさんの厩舎の後はミケル・デルザングル調教師のところでお世話になって、その間、2007年に試験を受け、このときは一発合格で、翌年開業しました。渡欧する際にはイギリスとフランスで迷ったんですが、フランスに行ったら英語だけじゃなくてフランス語もできていいかな、と思ったのもあって。

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