フランス競馬界で知らぬ者はない、
小林智調教師が現地で開業するまで

  • 小川由紀子●文 text by Ogawa Yukiko  photo by AFP/AFLO

――お話を聞いていると、見事なまでに幸運なご縁やタイミングに導かれていた、という印象を受けます。

小林 恵まれているとは思います。ただ、最近僕は若い子たちに言うんです。ジジ臭いと言われるかもしれませんが、大事なのは、最初の一歩を踏み出す勇気があるかないか、だと。

「ああいうことしたい」「こういうことしたい」という人はたくさんいると思いますが、そのとき、最初の一歩さえ踏み出してしまえば、あとは進んでいくものなんですね。

 僕がまだ牧場にいて「このままじゃいけない」と思っていた頃、関係者の方にパトリック・バルブさん(フランス競馬界の重鎮。競走馬ブローカーとしても有名)を紹介していただいたんです。

 当時、僕はフランス語をまったく話せませんでした。英語は牧場勤めの傍ら、お金を払ってオーストラリア人に習っていたんですが、それほどしゃべれるわけではなかった。でも、話さないことには何も始まらないので、勇気をもって国際電話をかけて、なんとか英語で話したら「ジャパンカップのときに日本に行くから、そのときに会いましょう」と言ってもらえた。

 ジャパンカップの日、僕は北海道から日帰りで、バルブさんに会いに東京に行ったんです。「12月にまたフランスに行くのでよろしくお願いします」と。

――そこの一歩を踏み出せるか、どうか......。

小林 今も、僕のところに、ワーキングホリデーで来ている19、20歳の若者がいます。角居先生のワールドチャレンジ(角居勝彦調教師が小林調教師らと連携して2014年に立ち上げた海外研修プログラム)に応募してくるのも若い子が多いですが、そういう子はやっぱり伸びますよね。

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