とにかく逃げる。毎日王冠でよみがえる快速馬サイレンススズカの残像 (4ページ目)

  • 新山藍朗●文 text by Niiyama Airo
  • photo by Kyodo News

 1000m通過が57秒7のハイペース。しかし、ここでも最後までペースが落ちることはなかった。ラスト3ハロンも35秒1。最速の上がりをマークしたエルコンドルパサーより、コンマ1秒遅いだけだった。

 まさしく「逃げて差す」レースだったわけで、後続にとってはたまったものではない。最後、流すようにして走るサイレンススズカに、エルコンドルパサーが2馬身半差に迫るのがやっとだった。

 勝ったからすごいのではない。サイレンススズカは、その逃げる姿を見ているだけで楽しかった。

「見ているだけで楽しい」――競馬ファンを、そんな思いにさせてくれるという点においても、稀有な存在だった。

 それにしても、あのとき、東京競馬場にいた13万人ものファンは、レース後に何を思ったのだろうか。

 負けはしたが、エルコンドルパサーも、グラスワンダーもまだ若い。このまま、やられっぱなしでは終わらないはずである。そうして、次の"3強対決"に思いを馳せる。

「ああ、これでまた、新たな"3強対決"の幕が開いたなぁ」

 おそらく、多くのファンがそんな思いにとらわれたのではないだろうか。

 しかし、続く天皇賞・秋。サイレンススズカのよもやのアクシデントによって、その"3強対決"は二度と実現することはなかった。

 あれから19年。今年の毎日王冠(10月8日)が今週末に開催される。脳裏によみがえるのは、サイレンススズカのあの"大逃げ"である。

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