とにかく逃げる。毎日王冠でよみがえる
快速馬サイレンススズカの残像

  • 新山藍朗●文 text by Niiyama Airo
  • photo by Kyodo News

 デビュー当時の大物ぶりは影を潜めたかに見えた。が、暮れから年明けにかけての2カ月の休養を経て、サイレンススズカはいよいよ本領を発揮し始め、大物ぶりを誇示するようになる。

 とにかく、逃げる。

 それも、半端な逃げではない。並の馬なら、ゴール前で歩いてしまうようなハイラップでの"大逃げ"だ。

 それでも、サイレンススズカはバテない。それどころか、のちに「逃げて差す」と評されるほどの巧みなギアチェンジにより、道中は後続に影も踏ませずに逃げ、それでいて直線に入ってからも、鋭い末脚でさらに後続を引き離す。

 圧巻だったのは、毎日王冠の2走前のGII金鯱賞(中京・芝2000m)だ。

 サイレンススズカは好スタートからあっさりハナを切ると、向こう正面で早くも後続に7~8馬身差をつけて、そのまま先頭でゴール。1分57秒8というレコードタイムで勝利した。そして、それ以上に衝撃的だったのが、2着との着差がなんと「大差」だったことである。

 要するに、「●●馬身」とかではなく、表示できないほどの差をつけて勝ったということ(※JRAでは10馬身差を超えた場合、「大差」と表示される)。これは、それなりの実力馬がそろう重賞では本来あり得ないことだ。事実、JRAの平地重賞でこんな派手な勝ち方をした馬は、サイレンススズカ以来、出てきていない。

 その勢いのまま、サイレンススズカは次戦の宝塚記念で初のGI制覇。そして、さらなる"飛躍の秋"を目論んで勇躍挑んだのが、毎日王冠だった。

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