とにかく逃げる。毎日王冠でよみがえる快速馬サイレンススズカの残像

  • 新山藍朗●文 text by Niiyama Airo
  • photo by Kyodo News

 GI天皇賞・秋(東京・芝2000m)の前哨戦という位置づけであるにもかかわらず、注目度は「本番以上」と言われたのが、1998年の第49回毎日王冠(東京・芝1800m)だ。

 この日、東京競馬場に詰めかけた観衆の数は、実に13万人強。近年では、GIでも滅多にないほどの動員数である。

 これだけでも、「GI以上」という評判が決して誇張ではないことがわかるだろう。

 お目当ては、まず明け5歳(現4歳)となる"快速"サイレンススズカだ。古馬となったこの年、ここまで負けなしの5連勝。近4走に関して言えば、GI宝塚記念(阪神・芝2200m)を含めていずれも重賞という圧巻の成績を残してきた。

宝塚記念で初のGIタイトルを手にしたサイレンススズカ宝塚記念で初のGIタイトルを手にしたサイレンススズカ 次に、ともにデビュー以来"負けなし"という4歳(現3歳)馬の2頭である。

 1頭は、圧倒的な競馬でデビュー4連勝を飾った"怪物"グラスワンダー。前年暮れのGI朝日杯3歳S(※朝日杯フューチュリティSの前身。中山・芝1600m)でも次元の違う末脚を繰り出して快勝。3歳(現2歳)チャンピオンに輝いた。

 もう1頭は、デビューから5連勝、重賞3連勝中だったエルコンドルパサー。前走では、当時「マル外ダービー」とも言われたGINHKマイルC(東京・芝1600m)を難なく制した。

 熱い注目を浴びていたのは、この"3強対決"である。春のグランプリ制覇という勲章を引っ提げて、その時点で現役最強馬に君臨するサイレンススズカを相手に、無敗の新鋭2頭がどんなレースを見せるのか、多くのファンが胸を躍らせていた。

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