僧侶が語る、『アストロ球団』とダービーと人生の巡りあわせ (3ページ目)

  • 土屋真光●文・写真 text & photo by Tsuchiya Masamitsu

 中山競馬場のモニターで、半ば放心状態で見ていましたね。あの年の桜花賞、1番人気はスティンガーでしたが、プリモディーネが1着、2着がフサイチエアデール。なんとかその馬券を的中させたのです。

 私にとっての競馬の原始体験はビギナーズラックだったわけですが、実は意外にも、そこからはまり込むわけではなかったんですね。何となく、競馬からフェイドアウトしました。

 私は大学卒業後から今に至るまで、密厳院という宿坊寺院に住み込みで生活し、お世話になっております。

 宿坊とは参拝客が宿泊できるお寺のことで、私たちの1日は、朝勤行(ごんぎょう)という、御本尊の前で読経や礼拝のお勤めをすることから始まります。お泊まりになられた参拝客に食事のお膳を運んだり、お布団を敷いたりと、お接待さしあげることも仕事のひとつです。

 2001年春、大学卒業後から、私は密厳院にお世話になりながら、毎週火曜日に高野山大学で、趣味である中国語の授業を聴講しておりました。高野山大学の中国語の恩師の影響もあり、いつかは中国の大学に留学したい、という夢を抱くようになりました。しかし、せっせと貯金して、留学費用が貯まったら中国へ行こう、などと殊勝な考えはこれっぽっちもなくて、競馬で大穴をガツンと当てたら中国へ留学しよう、などという、実に世の中をなめきった将来設計を持つようになりました。

 土曜日は競馬新聞をテキストに翌日の猛勉強。日曜日は往復4時間かけて、なんばのウインズ参り。必ず、高野山に戻ってからレースの結果を見るようにしていました。買った馬券がハズれだと知ってしまった後、徒労感を引きずりながら、山に帰るのはツライんですよ。

「外れた馬券とは今生、縁がなかった」と、すっぱりと頭を切り替えて、火曜日の中国語の宿題に集中。こんな感じの毎週のルーティーンが確立されました。

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