150万円の安馬、モーリスの
サクセスストーリーが香港で完結した

  • 土屋真光●文・写真 text & photo by Tsuchiya Masamitsu


 初GI タイトルとなる昨年の安田記念も、出走そのものが薄氷を踏むものだった。というのも、4月に行なわれたGIIIダービー卿チャレンジトロフィーを勝利した時点では、賞金順で安田記念への出走が確実ではなく、それを確実にするためにはもう一走して賞金を上積みする必要があったのだ。しかし、前述のようにケアが十分でなく、仮に出走権を得たとしても、それと引き換えに安田記念で十分なパフォーマンスが発揮できない可能性が高い。そこで陣営はコンディションを優先させる賭けに出た。幸いこの思惑が的中し、安田記念の勝利へとつながったのだ。

 その後も、勝ち鞍を順調に重ねてはいたが、やはり調整そのものは順調とはいい難かった。昨年のマイルチャンピオンシップも、安田記念からぶっつけ本番。続く香港マイルはその反動が出て、調教の時点で激しく発汗し、ギリギリまで軽めの調整に終始する。5歳初戦の香港のGIチャンピオンズマイルも、本来は3月のGIドバイターフからの始動する予定だった。

 しかし、これらをすべて乗り越えることで、モーリスは着実に"神"への階段を昇ることができた。5月頭のチャンピオンズマイルのレース後は、異例ともいえるレース直後の帰国輸送を行ない、安田記念に備えた。それでも2着と取りこぼしてしまったあたり、調整の難しさは依然として残っていたようにも思える。

 それでもその後、狙いすました秋の2戦、天皇賞・秋と香港マイルは、完璧な状態でレースを迎えることができた。特に香港での状態は、過去2回の香港での調整過程を間近に見てきているだけに、見違えるほどのデキの良さであった。仮にエイシンヒカリが完璧に走ったとしても、このモーリスが相手では勝ち切るのは難しかったのではないか。

 これだけの圧勝劇を見せつけられると、現役を退くことが惜しく感じられるが、「一番いいときに引退するのが一番。いいときに引退することで、いい仔を作ることができる」と吉田和美オーナーは言う。今後は北海道で種牡馬となり、いずれ南半球へもシャトル種牡馬として渡ることも計画されているようだ。モーリスがどんな「神の仔」を送り出すのか。今から楽しみである。


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