激アツのダービー。スマートオーディンから妙に漂う「一発ムード」 (3ページ目)

 心情的に言えば、もちろんディーマジェスティ騎乗の蛯名正義騎手に勝ってほしい気持ちがあります。悔しい経験を繰り返し、あと一歩というところまできていますからね。

 蛯名騎手の初めてのダービーは、皐月賞2着のシャコーグレイドで参戦したとき(1991年、8着)でしたか。確か3番人気でしたね。その後、キングカメハメハに勝負を挑んだハイアーゲームでの騎乗(2004年、3着)も、強く記憶に残っています。

 さらに、わずかな差で涙を飲んだフェノーメノ(2012年、2着)、1番人気で臨んだ一昨年のイスラボニータ(2着)なども印象的なレースでしたが、いまだ“ダービージョッキー”の称号を手にすることはできていません。ダービーを勝ったことのないジョッキーが、1番人気でレースを迎えるプレッシャーは尋常なものではないですしね。

 ただ、そうした経験はそう簡単にできるものではありませんし、それらの経験が今、大きな財産となっていると思います。一昨年同様、再び皐月賞馬で挑む日本ダービー。この中間の蛯名騎手からは、2年前とは違い、いい意味での緊張感がうかがえます。それが、いい結果につながることを期待しています。

京都新聞杯を勝ってダービーに臨むスマートオーディン京都新聞杯を勝ってダービーに臨むスマートオーディン さて、今回の「ヒモ穴馬」には、「皐月賞組」でも、「トライアル組」でもない、別路線からの馬を取り上げたいと思います。京都新聞杯(1着。5月7日/京都・芝2200m)から臨戦してくるスマートオーディン(牡3歳)です。

 同馬を管理しているのは、松田国英調教師。キングカメハメハとタニノギムレットでダービーを2勝しています。そして、その2頭はともにNHKマイルC経由でした。その他、同師の管理馬であるフサイチリシャール、ブラックシェル、ダノンシャンティ(直前で出走取消)らが、同じステップでダービーに挑んできました。

 それが今回のスマートオーディンは、ダービーに出走できるだけの賞金を満たしていながら、毎日杯(3月26日/阪神・芝1800m)からNHKマイルCには向かわず、京都新聞杯をステップにしてきました。世間では、2013年に同じ臨戦過程でダービーを制した“キズナ路線”と言われているようですが、その選択には好感が持てます。

 やはり、NHKマイルCというGIの舞台となれば、GIIやGIIIといった重賞に比べれば、消耗も激しくなります。まして関西馬にとって、短期間で2度の長距離輸送は堪えます。そうしたことを懸念して、今年はこれまでとは違う路線に変更してきたのでしょう。輸送のない関西圏のレースで、GIより相手が弱い分、目いっぱいの競馬をしなくて済むので、ダービーに向けて“お釣り(余力)”も残せますからね。

 実はこの馬、京都新聞杯の“前身”である京都4歳特別を勝って、裏街道から表舞台のダービーに挑んできたシルクジャスティスのイメージに重なるんです。そう、僕がサニーブライアンで勝たせてもらった、1997年のダービー2着馬です。

 スマートオーディンからは、同様の雰囲気が漂ってきています。一発あってもおかしくないと思いますよ。

大西直宏オフィシャルブログ>

プロフィール

  • 大西直宏

    大西直宏 (おおにし・なおひろ)

    1961年9月14日生まれ。東京都出身。1980年に騎手デビュー。1997年にはサニーブライアンで皐月賞と日本ダービーの二冠を達成した。2006年、騎手生活に幕を閉じ、現在は馬券を買う立場から「元騎手」として競馬を見て創造するターフ・メディア・クリエイターとして活躍中。育成牧場『N.Oレーシングステーブル』の代表も務め、クラシック好走馬を送り出した。

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