【競馬】藤田伸二騎手、突然の引退に想う「忘れられないレース」

  • 新山藍朗●文 text by Niiyama Airo
  • photo by Kyodo News

 周知のとおり、フサイチコンコルドは年明けデビューで、大一番を前にしてわずか2戦のキャリアしかなかった。その前年、イギリスではラムタラがデビュー2戦目でダービーを勝って話題となったが、日本ではデビュー3戦目でダービーを勝つということは、戦前を除いて過去に例はなく、その意味ではフサイチコンコルドに勝利を求めるのは「常識外」だった。

 まして、フサイチコンコルドは、ダービー前に予定していたトライアル戦を熱発で回避。もともと厳しい条件にありながら、さらに大きなマイナス要素が加わっていた。

 にもかかわらず、牧場の若いスタッフたちは、ダービーの勝利を「まったく諦めていない」という。彼らはそれだけ、フサイチコンコルドに強い思いを託していた、いや、むしろこの馬自身が、それだけの思いを託すに足る存在、ということなのだろう。

 そう思うと、どうしてもこの馬の馬券を買いたくなった。馬券を買うことで、ダービーに熱き情熱をかける彼らの仲間に加わって、一緒に戦うような気分を少しでも味わいたかったのかもしれない。

 結果、圧倒的1番人気のダンスインザダークが抜け出したところを追いすがり、ゴール手前で差し切った。手が震えるほどの感動のゴールだった。

 単勝配当は、2760円。ここ30年では、2010年のエイシンフラッシュ(単勝3190円)に次ぐ、"固い"ダービーでは異例の好配当だった。

 感動も、高額の払い戻しも、ともに手にした、生涯忘れられないダービーだ。

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