【競馬】短期間でブランドを築いた小牧場
パカパカファームの「強み」

  • 河合力●文 text by Kawai Chikara
  • 写真提供●パカパカファーム

 続けて、スウィーニィ氏は「伊藤さんは、もしかすると人間よりも動物に好かれているかもしれません(笑)」と笑いながら言った。いずれにせよ、両者の信頼関係がわかる言葉だ。

 他のスタッフも、伊藤氏のそういった面を強く感じることは多いようだ。あるスタッフは、「馬は臆病な生き物なので、セリ市などで違う環境に置かれると、どうしても怖がってしまいがち。でも、彼がいると、馬が落ち着いていることが多いんです」と語る。人当たりならぬ“馬当たり”がいい、とのことだ。

 ともあれ、スウィーニィ氏は、伊藤氏だけでなく、パカパカファームのスタッフ全員を「牧場の強み」だと考えている。

「パカパカファームでは、どのスタッフも全員同じ作業をやります。例えば、まだ若くて経験が浅いから芝刈りだけ、厩舎の掃除だけ……というような“差”はつけません。新人も、ベテランも、芝刈りに掃除、種付けに出産と、すべて同じ作業をやってもらうようにしています。そうすることで、若い人にはすごくいい経験になるし、やる気も出て、ホースマンとしての力がつきます。だから、パカパカファームのスタッフは優秀だと思っています」

 雄大な土地や、スウィーニィ氏が海外から連れてきた繁殖牝馬の質など、パカパカファームに成功をもたらした要因はいくつもある。しかしそれ以外にも、働くスタッフの努力や苦労が、牧場を支えてきたことは間違いないだろう。そういったスタッフの力は、「パカパカファームの強み」になっている。

 この連載では、パカパカファームの歴史や飛躍の要因といった“成功の舞台裏”を、長きにわたり紹介してきた。次回はその締めくくりとして、スウィーニィ氏の抱く「大きな夢」にスポットを当てる。

(つづく)

  ハリー・スウィーニィ

1961年、アイルランド生まれ。獣医師としてヨーロッパの牧場や厩舎で働いた後、1990年に来日。『大樹ファーム』の場長、『待兼牧場』の総支配人を歴任。その後、2001年に『パカパカファーム』を設立。2012年には生産馬のディープブリランテが日本ダービーを制した。
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