【競馬】安田記念で波乱を起こす、驚異の「香港マジック」 (3ページ目)

  • 土屋真光●文 text&photo by Tsuchiya Masamitsu

 そうは言っても、過去2回の安田記念の実績から、強調材料が欠けるのは確か。一昨年は調子落ち、昨年は出遅れといった敗因があるにせよ、東京芝コースの1分31秒台の高速決着に適性がないのも明らかだ。が、グロリアスデイズを管理する、ジョン・サイズ調教師はまったく勝負を諦めてない。

「昨年はいいコンディションで送り出したけど、馬が実力を発揮してくれなかった。実力さえ出し切れば、勝負に加われると考えている」

 そう言って、穏やかな口調の中にも強気な姿勢を見せる。そして、同師は今回、とっておきのカードを切った。J・モレイラ騎手である。日本初騎乗で、グロリアスデイズの手綱をとるのも今回が初めてだが、彼の手腕には大きな期待がかけられ、奇跡を起こすのではないか、とさえ見られている。

 事実、J・モレイラ騎手はそれだけの実績を残している。祖国ブラジルで成功を収めると、2009年にシンガポールに移籍。翌2010年から4シーズン連続でリーディング首位を獲得し、1日8戦8勝という離れ業もやってのけた。その後、さらなる高みを目指して香港に移籍すると、世界の名手が集まる舞台でも圧巻の騎乗を披露。シーズン途中から合流したにもかかわらず、現在リーディング2位につけ、勝率はダントツの20%超えを記録。その手腕を称して「マジシャン」「雷神」といった異名を持つ。

 そんなJ・モレイラ騎手の凄さは、順応性の高さ、いつの間にかいいポジションに入り込める技術、そして馬の能力を120%引き出せる騎乗テクニックである。2012年に香港で行なわれた国際騎手招待競走(全4レース。各競走におけるポイントで優勝者を決定する)では、世界屈指のトリッキーなコースと言われるハッピーバレー競馬場での初騎乗レースで、世界中のトップ騎手を相手に回して8番人気の馬を勝利に導いた。そのうえ、4戦目でも5番人気の馬を勝たせて、同イベント初出場初優勝を成し遂げてしまったのだ。

 さらに今年のドバイワールドカップデー(3月29日)でも、初騎乗となるメイダン競馬場(UAE)で、ふたつのGI競走、アルクォズスプリント(芝1000m)をアンバースカイ(せん5歳)で、ゴールデンシャヒーン(オールウェザー1200m)をスターリングシティ(せん6歳)で、立て続けに勝利を飾ってみせた。

 まさに“マジシャン”の異名に偽りなし。ならば、J・モレイラ騎手にとって、日本のコースが初めて、ということがマイナス材料になるとは思えない。むしろ、グロリアスデイズの適性を、ひっくり返してしまうのではないかと思わせるほどだ。

 グロリアスデイズは、今年も人気薄であることは間違いない。だが、J・モレイラ騎手があっと驚く“マジック”を起こしても不思議ではない。

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