【競馬】最強馬オルフェーヴル。有馬記念は名馬への「最終関門」 (2ページ目)

  • 新山藍朗●文 text by Niiyama Airo
  • photo by AFLO

 前出の専門紙トラックマンが言うとおり、今回は相手関係にも恵まれた。

 最強のライバル、ジェンティルドンナ(牝4歳)は、早々に有馬記念の出走回避を表明。加えて、天皇賞・秋(10月27日/東京・芝2000m)でそのジェンティルドンナを蹴散らしたジャスタウェイ(牡4歳)に、菊花賞(10月20日/京都・芝3000m)を圧勝したエピファネイア(牡3歳)も、有馬記念の出走を辞めて休養に入った。さらに、凱旋門賞で4着と健闘し、オルフェーヴルとの国内対決が期待された、今年のダービー馬であるキズナ(牡3歳)も「体調が整わない」として出走を断念。そして、順調に調整を進めていたエイシンフラッシュ(牡6歳)までも故障が発生し、レースを目前にして引退することとなった。

 結局、ファン投票上位で出走するのは、3位ゴールドシップ(牡4歳)くらい。ただ、ゴールドシップも前走のジャパンカップでは見せ場なく敗戦(15着)。オルフェーヴルを脅かすような存在とは言えず、専門紙トラックマンは「この相手なら、オルフェーヴルの状態面が"普通"でさえあれば勝てる」と言い切る。

 大一番には必須とされる"運"も、オルフェーヴルに味方しているようだ。

 もしオルフェーヴルに警戒すべき"敵"がいるとしたら、それはライバル馬ではなく、オルフェーヴル自身と言えるかもしれない。

「(オルフェーヴルは)とにかく、やんちゃ。油断すると振り落とされる。本当に(扱いが)難しい馬」

 誰よりもこの馬を知る池添騎手が過去のインタビューでそう語っているように、オルフェーヴルは気性面で難しさを抱えている馬だ。昨年の阪神大賞典(2着。2012年3月18日/阪神・芝3000m)で、向こう正面で大きく逸走したシーンはまだ記憶に新しいところ。「(オルフェーヴルも)もう大人になった」と関係者はそうした不安を一笑に付すが、持って生まれた気性の激しさが絶対に再発しないとは言い切れない。

 なぜなら、オルフェーヴルの強さの秘密は、そこにあるとも言えるからだ。ある厩舎関係者が言う。

「馬も人間と同様で、従順なタイプもいれば、それとは正反対のタイプもいる。ただ馬の場合、なかなか言うことを聞かなかったり、気難しかったりする馬のほうが、いろいろなことがうまく噛み合えば、とんでもない大物に育つことがある」

 デビューしたての頃は、牝馬にも負けて、ふた桁着順に沈むこともあった。それでも、目先の結果にとらわれず、辛抱強く育てていけば、ここまで成長し、強くなる――。オルフェーヴルとは、そうした競走馬の底知れぬ可能性を見せてくれた馬だった。

 だが、そういう馬だからこそ、現役として走り続ける限りは、走るための装置でもある"反骨心"を消し去ることはできない。"反骨心"とは、オルフェーヴルの心中に燠(おき※赤くおこった炭火)のようにくすぶる「オレは誰にも支配されない」という強い気持ちだ。その気持ちが持てる能力と噛み合って、オルフェーヴルはたぐい稀(まれ)な強い馬になった。オルフェーヴルはそうした"宿命"を背負った馬であり、それゆえラストランでもまた、強さと表裏にある"反骨心"が何かの拍子に爆発するのではないかという危険性を抱えている。

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