【競馬】ダービー馬輩出につながった、パカパカファームの転機 (2ページ目)

  • 河合力●文 text&photo by Kawai Chikara

 スウィーニィ氏が牧場の拡張を考えた理由は、決して所有馬を増やしたかったからではない。事実、厚賀分場を購入してからも、パカパカファームで管理する競走馬や繁殖牝馬の頭数はそれほど変わっていない。

 彼が、牧場を拡げることによって得られると感じたメリットは、別にある。それは「放牧時間の拡大」だ。放牧とは、馬を小屋などに入れておかず、牧場で放し飼いにすることである。

「仔馬たちにとって、放牧の時間はとても大切です。普段から走り回っていれば、自然と体力がつきますし、精神的にもいいのは明らかです。しかし、面積の狭い牧場で長時間放牧を行なうと、地面が荒れ、牧草もなくなってしまい、仔馬の成長には逆効果。そこでパカパカファームでは、とにかく1頭当たりの面積を広く取って、長い時間の放牧を実践しています。これを可能にしたのが、厚賀分場でした」

 33ヘクタールの広さだった本場から、150ヘクタールの厚賀分場に移ったことで、「1頭あたりの面積」もそのまま5倍近くになった。90頭前後の頭数でこの規模を誇る牧場は、珍しいという。その広さが、今までよりずっと長い放牧時間を可能にしたのだ。

「広さだけでなく、地形の素晴らしさも、厚賀分場購入の決め手になりました。見に来てもらえれば一目でわかるのですが、厚賀分場は全体的になだらかな坂になっています。これが馬たちの足腰を自然に強くしてくれるんですね。パカパカファームの馬がデビューして、中山競馬場や東京競馬場の直線の坂を駆け上がるときは、きっと小さい頃を思い出すはずです(笑)」

 土地の面積だけなら、さまざまなやり方で取得することも考えられるが、起伏に富んだ地形だけは、望んでもそう簡単に手に入れられるものではない。だからこそ、スウィーニィ氏は「ラッキー」という言葉を使い、現在その幸運を最大限に生かした長時間の放牧を実践している。

 無論、広い土地で長時間放牧に出しておくことは、管理が難しくなるという側面もある。しかし、それ以上に仔馬たちの体つきや成長が目に見えて良くなったため、スウィーニィ氏は、放牧時間をここ数年でどんどん長くしている。

「昼はもちろん、夜間も仔馬たちを放牧に出しています。厚賀分場を購入したばかりの頃は、まだまだこの土地の使い方、ノウハウを本当の意味で確立できていませんでしたが、今では厚賀分場の特長を生かした管理を行なえるようになってきました」

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