【競馬】エサが競走馬に与える影響はどれほどあるのか (2ページ目)

  • text by Sportiva

――ところで、その『完全配合飼料』という餌は、どの馬も同じものを食べているのですか。

秋山 いろいろな種類があって、その質もさまざまです。もちろん、値段もまったく異なります。ゆえに、美浦トレセンにはおよそ100の厩舎がありますが、厩舎ごとに与えている餌はすべて違います。さらに言えば、同じ厩舎でも、一頭、一頭、馬ごとに餌の種類が異なります。食の細い馬には、食べやすいように嗜好性の高い物を加えるなどして、少ない量でもしっかり栄養を取れるように工夫しています。

 つまり、馬も人間と同じで食べ物の好き、嫌いがあるんです。甘いものが好きな馬がいれば、しょっぱいものが好きな馬もいます。その馬の好みに合わせて、飼料の味を甘くしたり、塩味を濃くしたり、調整しています。実は、にんじんをまったく食べない馬もいるんですよ。馬がどこまで味覚を感じているか、というのは獣医学的にもわかっていないんですが、味の違いというよりも、餌単体で好き嫌いというものがあるみたいですね。人間ほど嗜好性の差はないけれども、馬によって、草類は食べなかったり、柔らかいものだけ食べて、硬いものは残したりしますから。

――競走馬一頭、一頭、餌が違うとは知りませんでした。

秋山
 調教師によって考え方は異なるのですが、最近は餌の重要度が増しているからだと思います。特に若い調教師は、餌についてかなり勉強していて、こだわりを持った人が多いんです。馬の栄養学に関する情報が増えていますし、中にはパソコンで綿密に計算して、競走馬にとって最善の餌を求めている調教師までいます。ひと昔前までは、餌を扱う業者に勧められるまま、それを馬に与えている厩舎がほとんどでしたが、最近は飼料の配合などを業者に注文して、独自の餌を使っている調教師が多くなりました。

――餌が競走馬に与える影響は、それほど大きいわけですね。

秋山 大きいと思います。それも、人間と一緒ですよ。食生活によって、体型がガラッと変わるじゃないですか。とりわけ、アスリートの方々は、きちんとした食生活を心掛けていて、その競技で結果を出すために、よりよい栄養素を摂取しようと努力していますよね。競走馬も同じです。いい餌を食べれば、いい馬体になったり、疲労が回復しやすくなったり、体質が改善されて、それが結果につながっていくわけです。

 だから、ダントツでいい成績を収めている厩舎があったら、どんな餌をあげているのか、調教師なら誰でも興味を持ちます。かなり昔の話ですが、関西のリーディングを取った厩舎が、特殊な餌を使っているという話が広まったときには、その餌の売り上げが一気に伸びたことがありました(笑)。

――次回も引き続き、競走馬の食生活の重要性と、"食"による具体的な成果やエピソードなどをうかがえればと思います。
(つづく)

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