【競馬】外国人牧場長だからこそ開くことができた「門戸」 (2ページ目)

  • 河合力●文 text&photo by Kawai Chikara

 さて、このマイネグラティアだが、彼女がまだセリで購買される前、パカパカファームでこの馬を担当していたのは、研修のためにアイルランドから来ていた大学生だったという。代表のスウィーニィ氏が語る。

「海外の大学には、獣医学とは別に、『馬科学(英語表記:Equine Science)』というコースを設けているところが多数あります。そのコースでは、4年間のうち半年から8カ月は、現場の牧場で研修を行なわなければいけません。そこでパカパカファームでは、3年ほど前から、毎年5~6名の研修生を受け入れています」

 北海道日高地方に位置するパカパカファームだが、競馬の本場であるヨーロッパから、毎年何人かの学生がやって来て、何カ月間も馬産の仕事を学んでいるのである。そして、華々しいデビュー勝ちを収めたマイネグラティアも、そのような研修生が面倒を見ていた1頭だったのだ。

 海外の大学生を受け入れられるのは、当然ながら言語の壁が存在しないからだ。パカパカファームには、日本人以外にもアメリカ人やフィリピン人など、さまざまな国籍のスタッフが在籍。スウィーニィ氏をはじめ、スタッフ間の日常のやりとりは、日本語よりも英語のほうが多いほどだ。

「複数の言語でやりとりをするのは、もちろんデメリットもあります。ただ、今の馬産地にとって、人手不足はとても深刻な問題。私が来日した1990年と比べて、日本人で牧場のスタッフを志す人はとても少なくなりました。そうした状況の中で、言語のハードルがないパカパカファームは、日本人だけでなく外国人でも働けます。これは大きなメリットです」

 結果、「多国籍なスタッフ構成」となっているパカパカファームは、ホースマンを目指すヨーロッパの学生たちにとって、より門戸を叩きやすい状況となった。「言語」という大きな壁を気にすることなく、日本の馬産について学べる場を得られることは、彼らにとって、このうえない条件なのだ。

「日本の競馬は、今や世界中から高い注目を集めています。システムの高さも周知されており、『日本の競馬を見たい』という海外の学生はとても多くなりました。ディープブリランテで日本ダービーを勝てたこともありますが、そうした背景があって『パカパカファームで研修したい』という声が、海外では多少なりともあるのです。もちろん、若い海外の学生にとっては、アメリカやヨーロッパとは異なる日本の競馬を間近で見ることが、とても貴重で、大きな経験になっていると思います」

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