【競馬】キズナがダービーで「本命」と言われるワケ (2ページ目)

  • 新山藍朗●文 text by Niiyama Airo
  • photo by Nikkan sports

 ところが、その後の2戦でつまずいた。

 3戦目は 昨年暮れに出走したラジオNIKKEI杯(阪神・芝2000m)だった。2歳馬の"出世レース"として知られ、ここでは同じく2戦2勝で、日米のオークスを制したシーザリオを母に持つエピファネイアとの「良血対決」が注目されたが、キズナは3着に敗れた。それまでの2戦とは違って、スタート後にやや引っかかるように先行。ゴール前の叩き合いで粘りを欠いて、勝ったエピファネイアから2分の1馬身+クビ差でゴールした。着差はわずかだが、見た目には完敗の3着だった。

 続く4戦目、2013年の初戦は3月の弥生賞(中山・芝2000m)だった。牡馬クラシックを占う重要な一戦で、おそらく陣営は、3着までに与えられる皐月賞の出走権獲得を最低限の目標にしていたはずだが、キズナは5着に沈んだ。前走とは一転、後方追走から直線で追い込む策に出たが、先行勢を捕まえ切れずに終わった。

 キズナの評価は、この2度の敗戦で急落した。前に行けば引っかかる、ゆえに後方一気の極端な競馬しかできない、そんな精神面の幼さを露呈したからだ。加えて、弥生賞では再びライバルのエピファネイア(4着)に後れをとり、「キズナは、エピファネイアには勝てない......」といった空気も漂い始めていた。

 また、こんなことを言う関係者もいた。
「キズナの母キャットクイルは、ビワハヤヒデ、ナリタブライアンの母として知られるパシフィカスの半妹だから、確かに血統はいい。でも、キャットクイルがキズナを産んだのは、20歳のとき。人間で言えばおばあさんと言われてもおかしくない年齢で、高齢な馬ほど繁殖能力は落ちると言われているから、キズナはもともとそうした弱点を抱えていたのではないか」

 その矢先だった。弥生賞の数日後、3歳牡馬戦線で有力視される馬の主戦騎手に「今後のクラシックの動向をどう見ているか?」と聞くと、彼は弥生賞のレースを振り返りながら、こう語った。

「あのレースでいちばん強い競馬をしたのは、キズナですよ。前走のラジオNIKKEI杯で前に行って引っかかったので、弥生賞では後方での待機策をとった。ところが、レースは1000m通過が61秒6のスローペースだった。中山で、それだけ遅い展開になったら、後ろから行った馬は届かなくて当たり前。でもキズナは、最後の直線で馬群の狭いところを抜けて伸びてきた。着順は5着でしたけど、勝ち馬とはほとんど差がありませんでしたからね(コンマ1秒差)。上位馬の中でいちばんいい脚を使っていたのは、間違いなくキズナです。レースがもう少し流れて、直線がスムーズだったら、勝っていたかもしれません」

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