【競馬】右回りと左回り、競走馬には本当に得意な回りがあるのか (2ページ目)

  • text by Sportiva

――もうひとつ、運動神経というのは、どういうことですか。

秋山 こちらも人間で例えると、右利きの人、左利きの人がいるのと一緒で、馬にも生まれつき、右利き、左利きがあるんです。それで、右利きの人は、字を右で書いたり、ボールを右で投げたりするように、馬も利き脚のほうが運動神経は発達していて、(調教など)何もしなければ、左右どちらかの手前ばかりを使って走っています。

「手前」というのは、馬が走るときの脚の運び方のことで、必ずどちらかの前脚が軸脚になるのですが、右前脚が軸になっているのが右手前。左前脚が軸の場合は、左手前と言います。もっと簡単に言うと、人間でも右足が利き脚ならば、右足を先に出して歩くように、馬も利き脚によって、どちらかを先行させて走り出します。その際、右脚が先に出るときが右手前、左脚が先行する場合は左手前となります。

 ただし、競走馬の場合、ずっと同じ手前で長い距離を走っていると、軸脚のほうに疲労が蓄積して、走ることが苦しくなってしまうのです。そのため、レースでは左右どちらかの脚に負担がかかり過ぎないように、何度か手前を替えて、効率よく走らせることが騎手には求められます。

 また、競馬場のコーナーでは、基本的に得手、不得手にかかわらず、右回りなら右手前で回って、左回りならば左手前で回らなければいけません。それができないと、先行する脚が外側になってしまうので、外へ外へと膨らんでいってしまうからです。あと、直線に入ってからも手前を替えます。これができないと、最後の伸びを欠く原因となります。

――手前を替えるのは、調教やトレーニングなどで調整するのですか。

秋山 そうです。右回りでは右手前で、左回りでは左手前で走れるように訓練して、直線では手前を替えられるように指導していきます。先ほども言ったように、同じ手前でばかりで走っていると、その軸脚となる筋肉だけが疲弊して、偏った走りになってしまいますからね。

 そこで、私が今いる育成牧場では、例えば月曜日は右回り、火曜日は左回りといった具合に、1日おきにコースの回りを替えて、馬を走らせています。それは、苦手な手前を克服させるためではなく、あくまでも両足の筋肉を均等に鍛えて、バランスよく走れるようにするためにやっていることです。

――ところで、右回り、左回りが得意な馬は見分けられるものなのでしょうか。次回は、その辺りの話を教えていただきたいと思います。

(つづく)

秋山雅一(あきやま・まさかず)
  1955年7月28日生まれ。千葉県出身。父・史郎氏が中山競馬場で開業していた調教師で、美浦トレセンが完成した1978年に父の厩舎で助手として働き始める。1991年に調教師免許を取得し開業すると、翌年には18勝を挙げて優秀調教師賞を受賞。2001年には、富士S(クリスザブレイヴ)、七夕賞(ゲイリートマホーク)と重賞を制覇した。2011年、惜しまれながら引退。現在はトレセン近郊の育成牧場でその手腕を振るっている。

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