【競馬】天皇賞・春の「一強馬」が勝つとき負けるとき (2ページ目)

  • 河合力●文 text by Kawai Chikara
  • photo by Nikkan sports

 すると、ゴールドシップのレーススタイルには不安が残る。道中ほぼ最後方を追走し、3コーナーからロングスパートで一気に押し切るというお馴染みの戦法は、競馬のセオリーからすると、安全ではない。これについて、前出のトラックマンは次のように述べる。

「主戦の内田(博幸)騎手も、毎回スタートから気合をつけているのですが、馬がまったく行く気を見せないため、あの形になっているようです。逆に、もしスタートを中途半端に早く出て、馬群の密集するポジションに入ってしまうと、仕掛けどころで動けなくなる可能性もあります。ゴールドシップの最大の長所は、長く持続する末脚ですから、仕掛けが遅れるのは、致命的。であれば、『最後方から大外を回すほうが安全』と陣営は考えているようですね」

 一瞬のキレに劣る部分があるゴールドシップ。他馬に囲まれるリスクを負うよりは、自分のタイミングで動ける最後方からの形のほうが、むしろ安全なのだろう。セオリーからは程遠いが、ゴールドシップにとっては、この形こそが"盤石"なのだ。現に、昨年の菊花賞(京都・芝3000m)では、最後方からのロングスパートで快勝している。

 今から7年前(2006年)の天皇賞・春でも、道中ほぼ最後方から3コーナーでロングスパートを敢行し、そのまま押し切った馬がいた。単勝1.1倍、まさに「一強」という断然の人気を集めた、ディープインパクトだ。観客からどよめきが起こるほどの、セオリーを超えたレースぶりは、今なお語り草となっている。

 似ても似つかぬ2頭の名馬だが、今年の天皇賞・春で、ゴールドシップが7年前を彷彿とさせる勝ち方を見せてもおかしくはないだろう。

 こうしてみると、「一強」ゴールドシップに死角はないように見えるが、天皇賞・春の歴史の中には、断然の「一強」を打ち負かした馬もいることを忘れてはならない。

 先述のメジロマックイーンが、天皇賞・春3連覇という快挙に挑んだ、1993年である。この年、メジロマックイーンはおよそ1年ぶりのレースとなる前哨戦の大阪杯で、2着に5馬身差をつけて圧勝した。休み明けを感じさせないその揺るぎない強さに、迎えた本番では、自身最高の単勝1.6倍という支持を受けた(1991年が1.7倍で1番人気、1992年は2.2倍で2番人気)。

 だが、結果は2着。金星を挙げたのは、メジロマックイーンを終始マークした2歳下のライスシャワーだった。

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