【競馬】小牧場の悲哀「走る馬なのに買ってもらえない」

  • 河合力●文 text&photo by Kawai Chikara

順調に発展を重ねたパカパカファーム。今や牧場の広さは東京ドームおよそ53個分におよぶ。順調に発展を重ねたパカパカファーム。今や牧場の広さは東京ドームおよそ53個分におよぶ。『パカパカファーム』成功の舞台裏
連載●第13回

アイルランド人のハリー・スウィーニィ氏が2001年に開場した『パカパカファーム』(北海道新冠町)。牧場は開場当時からおよそ8倍の広さになり、2012年にはダービー馬ディープブリランテを輩出した。そうした成功を収めるには、数々の理由がある。なかでも、スウィーニィ氏が開場から力を入れ、今なお重要視しているもの、それが、「ブラディング」だ。

 北海道の胆振(いぶり)地方に本拠地を構え、ますますの発展を続ける社台グループ。その裏で、古くから「サラブレッドの故郷」と呼ばれ、大小さまざまな牧場が集まる日高地方の競走馬生産は、厳しい戦いを強いられている。ここ数年、長い歴史を持つ名門牧場が相次いで閉鎖したことも、その現状を象徴する出来事だろう。

 だが一方で、昨年、今年と、日高で生まれたサラブレッドたちの活躍が止まらない。昨年の二冠馬で、暮れの有馬記念も制したゴールドシップ(出口牧場)。今春の高松宮記念でGI3勝目を挙げたロードカナロア(ケイアイファーム)。先日の桜花賞を勝ったアユサン(下河辺牧場)。これらは皆、日高地方出身のサラブレッドだ。

 もちろん、『パカパカファーム』生産で、昨年の日本ダービーを制したディープブリランテも、日高地方出身の一頭である。しかし、そうした日高地方の成果は「本当の意味で世間一般には浸透していない」と、オーナーのハリー・スウィーニィ氏は考えている。そこで、彼が再三その重要性を訴えるのが、ブランディング(顧客の関心を高めること。顧客にとって価値あるブランドを構築すること)だ。

「日高の牧場にも、素晴らしい馬がたくさんいます。GI馬が相次いで誕生していることが、何よりの証明ではないでしょうか。それでも、バイヤーの方になかなか足を運んでもらえないのが、現状です。だからこそ、日高地方の牧場が手を取り合って、少しでも多くの方に牧場の存在や取り組みを知ってもらうよう、プロモーションしなければなりません。その手段として、牧場のブランディングは、とても大切なのです」

 スウィーニィ氏のこの考えの根本には、日本の競走馬セリ市を見たときに感じた、日本と海外のバイヤーの行動の違いがあった。

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