【競馬】外国人ホースマンが成功させた
画期的な競馬ビジネスの「裏ワザ」

  • 河合力●文 text&photo by Kawai Chikara

 そうは言っても、サンデーサイレンスのような例は稀(まれ)なこと。アメリカからの輸入種牡馬で、その産駒が芝への適性を示さなかった馬は数多くいる。当然、ダービーを筆頭に、ホースマンが目標とするビッグレースが芝コースで行なわれる日本では、種牡馬として大きな成功を収めるのは難しい。

 翻(ひるがえ)って、そのような種牡馬の産駒も、芝メインの日本では評価が上がらないものの、ダートメインのアメリカに"逆輸入"されれば需要が高まるケースがある。

 そこに目をつけたのが、日本で購入した仔馬を調教し、海外のトレーニングセールで売却する「ピンフッキング」を試みたハリー・スウィーニィ氏。日本にいるメリットを重視する彼にとって、そうしたコース文化から生まれる日本とアメリカの種牡馬価値の差を利用しない手はなかった。

「アメリカへのピンフッキングでは、フォーティナイナーの産駒を多く売りましたね。日本では『ダート専用』の種牡馬というイメージですが、アメリカでは、日本でもてはやされるサンデーサイレンスのような扱いになる。トレーニングセールでいい走りを見せれば、もちろん評価は高まるのですが、それとともに血統の付加価値があるので、価格は当然上がりやすくなるんです」

 フォーティナイナーは、1996年に種牡馬として日本に輸入され、マイネルセレクトやユートピアなどの活躍馬を輩出。日本でも一定の地位を築いた。しかしその産駒のほとんどは、ダートが主戦場。手にした栄冠もダートの重賞ばかり。芝のダービーを狙えるような馬が高値をつけるセリ市の通例からすると、なかなか評価されにくかった。そのため、日本のセリ市において、フォーティナイナーの子どもが高額で取引されることは少なかった。

 一方、フォーティナイナーの母国アメリカでは、当然ながらダート血統こそが主流。しかもフォーティナイナーは、スウィーニィ氏が手掛けた繁殖牝馬の輸出ビジネスにおけるダンシングブレーヴのエピソードと同様(「アイルランド人だからこそ見出せた、新たな競馬ビジネス」1月20日配信)、日本に輸入された時期に、アメリカに残した産駒が大活躍したのだ。その年の北米リーディングサイアー(年間での産駒の獲得賞金1位)にもなって、結果、フォーティナイナーの血を持つ馬は、日本に比べてアメリカのほうがずっと需要が高かったのである。

2 / 3

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る