【競馬】ディープの妹が『飛んだ』。トーセンソレイユの力は本物か (2ページ目)

  • 新山藍朗●文 text by Niiyama Airo
  • photo by Nikkan sports

 関西の競馬専門紙記者によれば、エルフィンSの勝利には、強調すべき点がふたつあるという。

「ひとつが、ゴール前の直線でのコース取り。あの日の京都は、直線で外のほうが伸びる馬場でした。いわば外差しが決まる条件下で、あのレースでも有力馬はみんな外に出していたし、トーセンソレイユも外に出そうとしていた。ところが、彼女は出すところがなくて、仕方がなく荒れた内へ切れ込んで行かざるを得なかった。それでも、強烈な切れ味を見せて突き抜けた。あの末脚は、まさに『怪物』級ですよ」

 専門紙記者が続ける。

「もうひとつは、調教の時計です。トーセンソレイユが追い切りを行なったウッドチップコース(木片や木くずを敷き詰めたコース)は、その日はいい時計が出る馬場で、一番時計が5ハロン(1000m)61秒くらいでした。それなのに、トーセンソレイユは70秒8もかかった。同じレースに出た他の出走馬と比べても、抜けて遅かった。決して調教は走らないタイプというのではなく、体質が弱いために、現状ではそのくらいの軽い調教しかできないんです。にもかかわらず、レースへ行けばあれだけ走ってしまう。馬体がパンとしたらどれだけ走るのか、想像すると末恐ろしい限りです」

 エルフィンSで、トーセンソレイユは2番人気だった。おそらく、デビュー時に「小さくて見栄えがしなかった」(専門紙記者)という424kgの馬体重がさらに4kgも減っていたことや、"抜けて遅い"調教時計が、マスコミ、ファンの判断をやや及び腰にさせたのだろう。

 加えて、ディープ以降、母ウインドインハーヘアからはこれといって目立った活躍馬が出ていない。肝心の「ディープの妹」という看板も、最近は色あせてきた印象があった。そうした背景が、彼女の評価を下げたのだろう。

 だが、池江調教師は「顔つきと走るときの雰囲気がディープに似ている」と語っていたという。そして、その言葉どおり、わずかキャリア2戦目でミラクルを演じた。比類のない血とともに、兄ディープと同じ"スター性"を彼女は備えているのかもしれない。もしこれで、専門紙記者が言う「末恐ろしい」ほどの伸びしろが加味されれば、牝馬クラシックロードを一気に突き進んでいってしまう可能性は十分にある。

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