【競馬】外国人ホースマンが試みた
『ピンフッキング』という異色ビジネス

  • 河合力●文 text&photo by Kawai Chikara

 仔馬のセリ市は大きく分けて3つある。当歳(0歳)馬が対象のもの、1歳馬が対象のもの、そして、デビュー可能な時期が直前に迫った2歳馬対象のもの。このうち前者ふたつは、仔馬の血統や馬体、歩く際の脚さばきなどを見ながら、バイヤーが買うかどうかを判断する。

 一方で、後者の2歳馬を対象にしたセリ市だけは趣(おもむき)が異なる。というのも、このセリ市では、実際に上場された馬がコースを走り、そのタイムや動きをもとに、バイヤーが買うかどうかを判断するのだ。要するに、その場でこの馬の持つ競走能力の一端がわかるわけで、立ち姿や歩き方しか見られない当歳、1歳のセリ市に比べれば、信頼性は高い。このセリ市は「トレーニングセール」と呼ばれ、即戦力を求めるバイヤーから好まれている。

 もちろん、両親や兄弟が活躍している良血馬、評判馬は早い段階で買われるため、トレーニングセールに出てくることは少ない。ところが、例えば血統や馬体が今ひとつで、2歳まで買い手のつかなかった馬などは、トレーニングセールで好タイムが出ると一転して評価が高くなる。まさに、掘り出し物が見つかりやすいセールと言えるだろう。

 そして、このセリ市のシステムを生かしたのが、ピンフッキングである。

 そのシステムをわかりやすく説明すると、当歳や1歳馬のセリ市の際に、血統や馬体からは必ずしも評価の高くない仔馬を低額で買い取り、その後、買い手自らが馴致・育成を担当して、2歳のトレーニングセールに上場する。そこで目を引く走りを見せられれば、購入時よりも高い金額で売ることができるのだ。

 スウィーニィ氏は、『大樹ファーム』と『待兼牧場』で学んだ経験を、このビジネスに生かそうと考えた。

「しかし、ピンフッキングを日本で行なうのは、躊躇(ちゅうちょ)しました。なぜなら、アメリカなどではピンフッキングを生業にする『ピンフッカー』がたくさんおり、ビジネスとして市民権を得ていますが、日本で個人的にピンフッキングを行なう人はほとんどいないからです。そうなると、たとえ仔馬を購入し、順調に育成を施しても、ピンフッキングによる上場馬は信頼されにくく、買い手に敬遠されてしまうのではないか、と感じたのです」
 
 日本では、1歳馬セールの時点で、何頭もの上場馬をJRA(日本中央競馬会)が買い取り、それらに馴致・育成を施して、デビュー直前のトレーニングセールに再び上場し、売却するというシステムがある。流れ自体はピンフッキングそのものだが、これは利益追求というより、生産者へのフォロー(売れ残りを少なくする)や、育成技術の研究という目的や意味合いのほうが強い。JRAを除くと、国内でピンフッキングを行なっている個人、団体というのは、非常に少ないのが現状だ。

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