【競馬】パカパカファーム物語。来日したばかりのアイルランド人を襲った苦難 (3ページ目)

  • 河合力●文 text&photo by Kawai Chikara

「土壌の状態が悪ければ、馬にはストレスが溜まり、成長に悪影響を及ぼします。馬がたくましく育つには、快適な環境を作ってあげることが重要。雪解けによって荒れてしまった土地を見たとき、この地で牧場をやっていくには除雪が大きなポイントだと感じました」

 その言葉通り、スウィーニィ氏は当時の大樹ファームのオーナーに懇願して、1年目の冬に四駆のパワーショベルを購入する。約600万円の出費だった。

「私が『除雪のために最高級のパワーショベルを買いたい』と言ったら、オーナーやアドバイザーのジョン・マルドゥーンから猛反対されました。『アイルランドでもアメリカの大牧場でも、そんな大型のものは見たことない』と。ふたりとも海外を飛び回っていましたから、大樹ファームのある十勝の冬をまだそれほど知らなかったんです。でも、私は譲れませんでした。写真や資料を見せて雪の多さを説明し、何とか説得しましたよ」

 夏のアブに、冬の降雪。「言葉の壁」だけでなく、環境面においても想像以上の苦労を味わったスウィーニィ氏。「一年目は本当に大変だった」と彼は当時を振り返る。しかし、それでもアイルランドに戻ることはまったく考えず、むしろ日本に居続けることを望んだ。

 その決心の裏側には、実はアイルランド人だからこそ感じた「日本競馬の持つ可能性」があった。次回は、その可能性の正体を解き明かしていく。

(つづく)

  ハリー・スウィーニィ
1961年、アイルランド生まれ。獣医師としてヨーロッパの牧場や厩舎で働くと、1990年に来日。『大樹ファーム』の場長を務める。その後、2001年に『パカパカファーム』を設立。2012年には生産馬のディープブリランテが日本ダービーを制した。

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