【競馬】オルフェーヴルでも涙。凱旋門賞制覇には何が必要なのか

  • 土屋真光●文 text&photo by Tsuchiya Masamitsu

 フォワ賞のレース後、思わぬ小差の勝利に、池江泰寿調教師は「日本とはまったく異質なロンシャン(競馬場)の馬場では、この馬の武器である後半の切れ味に頼れない」と分析した。重たい馬場を突き進むには、一瞬の切れよりもじわじわとポジションを上げていけるパワーの必要性を改めて感じ取った。中間の調教では、フォワ賞よりも負荷を増やしパワーアップに努めた。

 直前に有力馬の回避が重なったが、その分「チャンスあり」と、新たに戦線に加わる馬も現れていた。凱旋門賞が近づくにつれて、湿り気の多い日が続いたことによる馬場の悪化も折込み済みで、だ。むしろ、デインドリーム(牝4歳/ドイツ。直前に出走を断念した昨年の覇者)やスノーフェアリー(牝5歳/イギリス。GⅠ3連勝中も脚部不安で回避)が戦線にいたときよりも、重馬場巧者がそろったことで、より切れ味に頼れない状況が作られていった。

 迎えた本番。不利とされる大外18番枠からの発走に対し、レース中の消耗が少ない位置取りとして、スミヨンは最後方の外側の一角を走ることを選択した。密集するインに入ってしまっては、前が塞がるなどの不利を受けるのは明らかだった。帯同馬のアヴェンティーノ(牡8歳)を前に置いて自身の折り合いをつけつつ、勝負どころでアヴェンティーノが進路を開けてくれるまで我慢。リスクを最小限にしながら、力を温存した。

 置かれた状況の中では「よりベターな作戦」と池江調教師も振り返った。すべてが周到に用意された作戦で、ほぼ理想通りに淡々とレースが流れていった。

 最終コーナーを回って、前にいるのはインコースでじっくりと力をためた重馬場巧者ばかり。残り500mの直線、仕掛るならここしかない。最後の直線に向くと同時に、スミヨンはオルフェーヴルを馬群の外に持ち出した。

 本来ならばセオリー通りだったが、誤算はここだった。

 視界が開け、闘争本能が点火したオルフェーヴル。満を持して解き放った脚は、まるで一台だけ性能が違うエンジンを積んでいるかのように、誰もの想像を超えすぎていた。頼れないはずの武器が切れすぎたのだ。

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