【競馬】凱旋門賞へ「パーフェクト」。
オルフェーヴルが前哨戦で見せた「進化」

  • 土屋真光●文 text&photo by Tsuchiya Masamitsu

「むしろ、あのくらいは折り合いに苦労してほしかった」
 と管理する池江泰寿調教師はレース後にここでの狙いを振り返る。しかしこれも、スミヨンは馬を消耗させることなく落ち着かせてみせた。

 道中は、後方でレースを進めていたオルフェーヴルは、前半の1000mを迎える前に一旦下げて、後方を並んで追走していたフィオレンテの内に潜り込む。オルフェーヴルのように気性が繊細な馬にとって、馬群の中で位置取りを前後に上げ下げすることは、馬の集中力を損なうリスクを伴う。それを、さも簡単そうにこなしたことからも、新しいパートナーとの相性は期待以上に高いことを示した。

 レース後のスミヨンは開口一番「パーフェクト!」と親指を突き上げた。「レース前は彼(オルフェーヴル)のテンションも高かったけれども、レースでは何ら乗りにくいことはなかった」というスミヨンの言葉に、道中の課題に対する答えのすべてが集約されているだろう。

 前半の1400mを1分36秒台と、日本の感覚からは到底考えられない遅いペースにも対応できたオルフェーヴルは、直線ではアヴェンティーノが空けた内ラチ沿いから抜け出しを図る。そこから突き抜けるのにまごつくようにも見えたが、それはレース全体が後半のスパート勝負になったから。「Without exhaust(=全力を出し切ってはいない)」とスミヨンが語ったとおり、実際にオルフェーヴルが追われたのはほんの数秒に過ぎなかった。

 その点については、池江調教師もこう語る。
「すべてが日本とは異質なので、日本と同じ終(しま)いの切れ味という武器に頼れない」

 そういう意味では、これまでは1頭だけ違う次元で、持ち味の爆発力を発揮しての勝利ばかりだったが、いわゆる叩き合いにも対応できる点を示せたことが収穫と言えるだろう。

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