【競馬】ルーラーシップが宝塚記念で証明する、「血」の力 (2ページ目)

  • 土屋真光●文 text by Tsuchiya Masamitsu
  • photo by Nikkan sports

 3歳クラシック戦線をはじめ、4歳になってからも求められた結果は出せなかったが、管理する角居勝彦調教師や厩舎スタッフは、この馬の持つポテンシャルを信じて疑わなかった。結果が出なければ出せばいい。よりよい条件を求めて、そのための選択肢は国内にこだわらない。5歳になったルーラーシップは、年明けに2戦を消化して、4月29日開催される香港の国際GI、クイーンエリザベス2世カップに矛先を向けた。

 4つのコーナーを回る芝2000mは、条件だけ見ればルーラーシップにとって最も合致していた。だが、条件さえ合えば勝てるというほど、競馬は甘くない。ましてや海外への遠征。ドバイ、アメリカ、オーストラリア、香港と世界各国で結果を出してきた手練れの角居厩舎であっても、それは例外ではない。

「いやぁ、実は飼い葉(馬の飼料)を全部食べてくれないんですよ。状態は悪くはないんですけど、順調とも言い切れないんですよね」

 レースの4日前、帯同スタッフの岸本教彦調教助手は、苦笑まじりに愛馬の状態を漏らした。同じ海外遠征でも、前年に敢行したドバイ遠征(シーマクラシック/6着)のほうが、よほど絶好調だったと付け加える。環境の変化による食欲減にはじまり、体重の減少、準備運動用馬場のコンディションが合わない、栗東と比べて調教の時間が蒸し暑いなど、次々と「そこまで酷くはないし、想定の範囲内なんですけど」というエクスキューズを添えながらも、こちらが期待しているものとは正反対の、ネガティブな要素が並べられた。

 当然、指揮官である角居調教師の耳にもその情報は入っている。翌々日、つまりレース2日前の朝、角居調教師はルーラーシップの状態を確かめるべく、調教が行なわれる沙田競馬場のスタンドに姿を現した。調教を見終えた角居調教師の第一声は「良くないとは聞いていたけど、思っていたほど悪くはないです」と、もともと饒舌ではないことを差し引いたとしても、いいでも悪いでもなく、なんとも歯切れの悪いもの。悪くはない、という言葉も、取材陣にではなく、むしろ角居調教師が自らに言い聞かせているかのようにも見えた。

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