【競馬】ダービー本命候補、ゴールドシップの「唯一の落とし穴」

  • 新山藍朗●文 text by Niiyama Airo
  • 村田利之●写真 photo by Murata Toshiyuki

 また、このゴールドシップと三冠馬オルフェーヴルは、父がステイゴールドというだけでなく、母の父がメジロマックイーンという点も共通している。言葉は悪いが、あえて言えば、ステイゴールドは「地味」だし、メジロマックイーンは「古い」。にもかかわらず、この「地味」と「古い」の組み合わせから、連続してクラシックを勝つような大物が生まれているのだ。仮に、今の日本の競馬シーンに"七不思議"があるとすれば、これはかなり上位にランクされるだろう。

 その理由については、あとで触れるとして、まずはゴールドシップ誕生の背景を見てみたい。ある競馬関係者によれば、今となっては「奇跡」とも思えるこの配合が実現した舞台裏には、こんな事情があるという。

 ゴールドシップの母ポイントフラッグは現役時代15戦1勝で、戦績としては2001年のチューリップ賞2着が目立つ程度。牝馬ながら500kgを超える大型馬で、馬体重は最大530kg台にもなった。当時のこの馬を知る関係者によれば「大きくてもっさりしてどんくさい感じの馬」だったという。競走馬として大成するには、その大きさが災いして、素軽さに欠けたということだ。

 その後、引退して繁殖牝馬となるが、ゴールドシップの前に生まれた4頭は、いずれも「大きくてどんくさい」という特徴を受け継いだようで、さしたる成績は上げられなかった。

「そこで、関係者が考えたのが、小さい種牡馬と種付けして、小さい産駒を出そうということ。それが、この産駒特有の『大きくてどんくさい』という欠点をカバーしてくれるのでは、と期待したわけです。その点で、現役時代420~430kgくらいで走っていたステイゴールドは、相手としてピッタリでした」(前出・競馬関係者)

 ただ、実際にはゴールドシップも馬体重500kg前後の大型馬だから「産駒を小さく出す」という試みはうまくいかなかった。それでも、ステイゴールドの血が「どんくさい」と言われる欠点をカバーしてくれるという、この交配が意図した究極の目的は果たしたことになる。

 ステイゴールドと母の父メジロマックイーンがなぜ相性がいいのかは、「一方の重さを、一方の軽さがカバーしている」など、さまざまな解釈がなされている。それらのどれが正しいのかはわからないが、メジロマックイーンの血をひく牝馬の少なさと、その牝馬がステイゴールドと交配する確率の小ささを考えると、この配合の成功はまさに「夢」であり、「奇跡」と言うしかない。しかもそれを、社台グループのような巨大資本ではなく、小さな牧場とその周囲の人が成し遂げたということにも大きな価値がある。

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