【競馬】春の天皇賞、暴走オルフェーヴルは本当に『更生』しているか (2ページ目)

  • 新山藍朗●文 text by Niiyama Airo
  • photo by Nikkan sports

 ただ裏を返せば、もし今回のアクシデントがトラックマンの言うように、「人為的ミス」だとすれば、むしろ春天制覇への視界は良好になる。つまり今度は、池添騎手も厩舎スタッフも含めて、人間が同じ失敗を繰り返さないように気をつければ済むからだ。実際、「今度は、馬の仕上げは入念だし、池添騎手も気を引き締め直している」(前出のトラックマン)という証言もある。

 一方で、一部には「楽観はできない」という声も消えてはいない。

 理由のひとつは、「オルフェーヴルのこの気の悪さは、父のステイゴールド譲りで、その意味ではDNAのなせるワザ。それが一旦このように顔をのぞかせると、なかなか矯正するのは難しい」(厩舎関係者)という点だ。

 確かに、父ステイゴールドはデビュー3戦目のレースで内に刺さり、当時の主戦・熊沢重文騎手がそれを直そうとすると、嫌がって外に逃げ、熊沢騎手を振り落とした。結果、今回のオルフェーヴルと同じ調教再審査となった。古馬になってからも、2001年の京都大賞典で、ゴール前で急に左へ斜行し、他馬を妨害したとして、1位入線ながら失格処分を受けている。

 オルフェーヴルの気の悪さは、まさしくこの父ステイゴールドのDNAを感じる。しかも、別の競馬専門紙記者の「1回目と2回目はレースが終わってから。でも今回はレース中で、だんだん悪質になっている」という指摘もある。

 加えて、これが最も肝心だが、京都の芝3200mの長距離戦は、本質的にオルフェーヴルに向いた条件ではないということだ。

 春天を勝ったことのあるジョッキーに聞くと、このレースは「道中、ちょっとでも引っかかったらまず勝てない」と言われるほど、折り合いに厳しく注文がつく。阪神大賞典であんなに過度の折り合い難を見せたオルフェーヴルだけに、不安は拭えないうえ、「今度は大丈夫」という保障もない。

 3000mの菊花賞こそ勝っているものの、あれは同世代との一戦。今度は歴戦の年長馬が加わるし、その中には過去の勝ち馬も、この条件が大歓迎という馬もいる。そういう馬たちと比べると、いかにオルフェーヴルの競走能力が抜きんでていても、そのアドバンテージは、実は決して大きくはない。

 三冠馬となり、有馬記念ではブエナビスタなど古馬最強クラスにも圧勝したオルフェーヴル。本質的に条件が合わないこの春天は、おそらく日本の競馬で彼に残された唯一にして最大の難関となる。

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